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Katy B

Katy B

On a Mission

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野田 努   Jul 04,2011 UP

 きざしは数年前からあった。最初に気がついたのはM.I.A.の『カラ』に収録された"XR2"だった。「1992年にあなたはどこにいた?」と、2007年のセカンド・アルバムで彼女は言っている。翌年にはゾンビーがすべてのトラックを1992年当時の機材によって作ったアルバム『Where Were U In '92?』をアクトレスのレーベルからリリースしている(インナーでは当時のレイヴ・トラックメイカーたちへの敬意を表している)。そして今年はフレンドリー・ファイアーズのセカンド・アルバム『パラ』だ。セカンド・サマー・オブ・ラヴ・リヴァイヴァルは――そこには残念ながらサード・サマー・オブ・ラヴという言葉はない――本気だ。この秋には、先日このサイトでインタヴューがアップされたテリー・ファーレイが音楽を監修するレイヴ映画『ウィークエンダー』が公開される。UKではあの時代が見直されているのだ。良いことだと思う。我々は、ダンス・ミュージックを通じて人が集まることの大切さを学んだ。集まればそこに公共空間が生まれた。それがこの文化のもっとも重要な点だった。

 まあそんなわけで、ダンス・ミュージックが蒸し返しているUKでは、ポップ・フィールドにおいてもその影響が出ているのは周知の通り。21歳のキャサリーン・ブライアン、ケイティ・Bを名乗る彼女は現代のレイヴ・ディーヴァ、ダブステップ世代のポップスターである。
 が、たとえばザ・KLFの"3AMイターナル"の、あるいはゴールディーの"インナー・シティ・ライフ"のヴォーカリストの名前を覚えている人はいるだろうか。"グッド・ライフ"のヴォーカリストの名前すら忘れられているかもしれない。レイヴ・ミュージックにおいてヴォーカル・パートはだいたい匿名的か、へたしたら消耗品だ。それは理にかなった話で、レイヴとはステージよりもダンスフロアが主役だったからだ。
 そういうわけで、ケイティ・Bはむしろ古典的なディスコ・ディーヴァに近いと言えるのかもしれない。ドナ・サマーからロレッタ・ハロウェイといった昔ながらのダンス系シンガーの系譜で、しかしまあ、そのプロダクションをかためているのがベンガやジンク、ジーニアスやスクリームといったUKのダブステップ/ハウス/ガラージ/ファンキーの売れっ子プロデューサー連中になっただけとも言えるのだが、アルバム・タイトルが言うように、彼女は自分の"任務"というものをよく理解している。とにもかくにも「踊らせるわよ」という任務に忠実なのだ。
 目的がはっきりしている潔さはこの音楽に勢いを与え、本当に魅力的なものにしている。歯切れが良いし、彼女が欧米で好かれる理由も理解できる。換言すれば、彼女はレイヴ・ディーヴァのように個性を失うことなく歌う、ポスト・レイヴ・ディーヴァだとも言えよう。

 ケイティ・Bはタワーレコード新宿店でも売れていると、売り場の方は言っていた。ヴォーカルの歌メロはR&Bそのものだが、バックトラックがガラージやファンキーというだけでもずいぶんと印象が変わるもので、とにかく新鮮なポップスに聴こえる。「いいねー!」と思わず手を叩きたくなる感じだ。そういえば、ちょうど数週間前にマンションの前の道路を暴走族が彼女が歌う"パーフェクト・ストレンジャー"を爆音でかけながら猛スピードで走っていたが、気持ちは痛いほどわかる。これはまさに飛ばしたくなるような曲だ。
 "パーフェクト・ストレンジャー"は、周知のようにマグネティック・マン(ベンガ+スクリーム+アートワークによるスーパー・グループ)がはなった大ヒット・シングルだが、曲で歌っているのはケイティ・Bなので、彼女のこのデビュー・アルバムにも収録されている。同じように昨年先行リリースされた"ライト・オン"にはミズ・ダイナマイトのファスト・ラップがフィーチャーされている。"パーフェクト・ストレンジャー"が暴走的な爽快感のある曲なら、こちらはふたりの女性の"強さ"を見せつけられるような、見事なまでにキャッチーな曲だ。
 アルバムで多くのプロダクションを作っているジーニアスは、UKガラージ/UKファンキーのプロデューサーとして10年のキャリアを持っている実力者で、彼はクラブ通いのポップ・アルバムに見事な起伏を付けている。ベンガは4つ打ちのキックドラムの入ったポップ・レイヴを手掛け、ジンクはファンキー調の曲とクラック・ハウス調の2曲を提供している。アルバムの最後に収録された"ハード・トゥ・ゲット"は"パーフェクト・ストレンジャー"とともに、もっとも激しくレイヴを訴える曲だが、同時にケイティ・Bの"明日"を予感させる素晴らしい曲だ(キーボードを弾いているのは、日本人プロデューサーのマコト)。曲の最後で彼女は半分笑いながらアルバムの参加者たちの名前を呼んでいる。そのリラックスした感じもまた、大物ぶりを思わせる。

野田 努