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John Maus

John Maus

We Must Become the Pitiless Censors of Ourselves

Ribbon Music / Upset the Rhythm

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野田 努   Jul 19,2011 UP

 メロウハイプのタイラー・ザ・クリエイターがフィーチャーされた"F666 The Police"のライヴ模様をYuTubeで見たりすると、「ああ、若者っていいなぁ」としみじみと思ったりもする。こういう曲でいっしょにダイブできるのは間違いなく若者の特権だ。メロウハイプにはさらにまた"コップキラー"という曲もあるのだが、奇しくもジョン・マウスのサード・アルバムにもほぼ同名の曲が収録されている。こちらは二語で"コップ・キラー"で、それはこんな歌詞だ――「警官殺し、今夜警官を殺そう/警官殺し、目に付く場所であらゆる警官を殺そう」
 ジョン・マウスは......はっきり確認したわけではないが、たぶんゲイだろう。なにせ"ライト・フォー・ゲイズ(ゲイの権利)"という曲を、3年前、〈ラフトレード〉が編集したコンピレーション・アルバムに提供している。パンダ・ベアやダーティ・プロジェクターズ、バトルズやヴァンパイア・ウィークエンドらいまどきのインディに混じって、その歯に衣を着せぬ物言いはずいぶんと印象的で、チルウェイヴ系が必ずしもすべてがお行儀のいい夢見人の音楽ではないことを示してもいる。なにせこのアルバムの題名も『我々は、我々自身が冷酷な検閲官にならなければならない』......我々は検閲される側ではなく、我々こそが検閲する側である。そう宣言しているこのアルバムが、最近市に同性婚が認められたというニューヨーカーの、まずは容赦ない憤りを表している点において興味深い。

 マウスには「Theses on Punk Rock」という、向こうのシーンではそこそこ注目されたパンク・エッセイがある。彼はその文章のなかで"パンク"をグローバル資本主義に抗議するアナーキストであると定義し、それは"若さ"とは関係はあるが"ガキっぽさ"ではない......などといろいろ面白いことを書いている。そして、今日の政治的な暴力はすべて"警察(the police)"というタームに集約されるとしている。ドゥルーズを勉強した青年が、それをロジカルなパンク思想としてポップに応用するのはある種の欧米らしさだが、マウスがもともとはアリエル・ピンクの一味であり、マウスの評判を高めるのにひと役買ったのがパンダ・ベアだったという話も、ヒプナゴジック・ポップ(入眠ポップ)が実は目覚めの音楽であったという逆説を証明するかのようで、いま彼が『タイニー・ミックステープス』や『ピッチフォーク』といったポップ・メディアから最大限の賛辞を送られているのも理解できる。

 『ウィ・マスト・ビカム・ザ・ピトレス・センサーズ・オブ・アワセルフ』は、音楽的にはジョイ・ディヴィジョンやOMDからの影響を受けた昨今のシンセ・ポップ大衆運動のひとつだと言えるが、標準的なニューウェイヴよりは彼の情熱ゆえにバランスを崩している。"ウィ・キャン・ブレイク・スルー(我々は突破できる)"や"キープ・プッシング・オン(押し続けろ)"といった、明確に社会運動と結びついた扇動曲があるように、シンセ・ポップはマウスにとって目的ではなく手段に過ぎない。それが良さでもあり、つまらなさでもある。
 まあとにかく、「敵が見えにくい時代」という言葉をつぶやいている人は、ジョン・マウスの音楽を繰り返し聴いたらちょっとはすっきりするかもよ......というか、「アートかぶれのおかまの音楽」と罵られ、偉大なるアメリカン・ロックの精神に反すると認定されたシンセ・ポップが、30年前はまるで居場所がなかったアメリカ内部において、現在チルウェイヴという呼称のもとこれだけ拡大していることのほうが特筆すべき"変化"である(このことは『EYESCREAM』の連載に詳しく書いたので、興味のある方は読んでください)。

野田 努