ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. The Durutti Column - Renascent | ザ・ドゥルッティ・コラム
  2. Cornelius ──ドキュメンタリー映像シリーズ第4弾が公開
  3. HOUSE definitive 増補改訂版
  4. interview with Toru Hashimoto 橋本徹がブラジリアン&ブリージンなコンピに込めた渋谷系の哲学 | 『Free Soul』&『Cafe Apres-midi』最新作をめぐって
  5. レイヴ・カルチャー──エクスタシー文化とアシッド・ハウスの物語
  6. THE CROWD──ele-king presents HIP HOP JAPAN
  7. Columns スクエアプッシャーはいつだってテクノロジーの限界を超えていく ――7月20日(月祝)@昭和音楽大学、特別講義のレポート
  8. Various - Peace Anthems | レッド・フック・レコーズ
  9. DREAMING IN THE NIGHTMARE
  10. Technics ──SL-1200シリーズ誕生55周年記念、¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$UによるDJが配信
  11. Kassel Jaeger - Sub Re | カッセル・イェーガー
  12. Hajime Tachibana ——プラスチックス結成50周年、立花ハジメがニュー・アルバム『dad bb』、12インチ・シングル「ZOUNDS!」をリリース
  13. 野田 努
  14. 未来マニア──エレクトロニック・ミュージック・ガイド
  15. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第4回 奇妙な質問の正体
  16. interview with Trickfinger (John Frusciante) ジョン・フルシアンテ、テクノを語りまくる
  17. YOUNG JUJU ──現KEIJUのファースト・ソロ・アルバム『juzzy 92'』、10周年記念盤が発売
  18. Seefeel - Sol.Hz | シーフィール
  19. DUB入門――ルーツからニューウェイヴ、テクノ、ベース・ミュージックへ
  20. ああ、リンコ、リンコ、リンコ ──菊地凛子主演(&ブレイディみかこの息子出演)の『ラスト・サマー』がイタリア映画祭で上映へ

Home >  Reviews >  Album Reviews > The Rapture- In The Grace Of Your Love

The Rapture

The Rapture

In The Grace Of Your Love

DFA/ユニヴァーサル インターナショナル

Amazon iTunes

木津 毅   Oct 04,2011 UP

 そのシングル、"ハウス・オブ・ジェラス・ラヴァース"を初めて聴いたのはいつだったか......はっきり思い出せないが、僕の場合、たしか2003年に入ってからだったと思う。まだYouTubeもなかったので、ネット上ではなく、たぶん何かのイヴェントで聴いて、そして彼らのデビュー・アルバム『エコーズ』が出る頃にはそれを聴く度にバカみたいに奇声を上げる10代になっていた。ニューヨークに〈DFA〉という理想主義そのもののようなレーベルが生まれたこと、そしてそこを中心にディスコ・パンクという、ネーミングそのままの、しかしその相容れなかったはずのふたつの音楽を交配させた新しいダンス・ミュージックが発生したこと――後に知ったそれらの情報は、その興奮に拍車をかけた。当然僕だけではなかった。それから数年はインディ・ロック系のイヴェントでは"ジェラス・ラヴァース"は必ずといっていいほどスピンされ、その1曲はロック・キッズをギターをあくまで持たせたままでダンスフロアに向かわせるのに十分だった。実際、僕と同い年で「ディスコ・パンクが契機で洋楽を本当に聴くようになった」という友人がいて、彼はいま楽しそうにダブステップを追いかけている。
 "ハウス・オブ・ジェラス・ラヴァース"はいま聴くとたしかに「かつてのディスコ・パンクの音」だが、それでも生々しい興奮の記憶が残っている。〈DFA〉らしいパーカッションのイキのいい響きと、パンキッシュに荒々しいギター・サウンドとどこかぎこちないグルーヴ。それはパンク・キッズががむしゃらに鳴らし叫んだダンス・サウンドであり、LCDサウンドシステムが音楽マニアの中年の哀愁をその音にブレンドしていたのに対して言えば、ザ・ラプチャーは自分たちの未熟さや勢いを偽ることなく詰め込んでいた。

 セカンド・アルバム『ピーセズ・オブ・ピープル・ウィ・ラヴ』から5年の沈黙の末、ザ・ラプチャーが〈DFA〉に帰ってくる――しかも、LCDが活動を休止したこの2011年に――というニュースは、かつて"ジェラス・ラヴァース"で踊ったキッズのすべてが興奮したに違いない。リード・シングルとなった"ハウ・ディープ・イズ・ユア・ラヴ?"はすぐにネット上で聴けたが、その膨らんだ期待に大いに応えるものだった。バンド・サウンドではあるがパンクの要素はかなり後退し、シカゴ・ハウス調のピアノのリフと4つ打ちのバスドラムで幕を開ける、よりオーセンティックなディスコ・ナンバー。何と言っても4分辺りで加わり吹き荒れるサックスのソロと、それと対抗するように「君の愛はどれぐらい深い?」と狂おしく歌い上げるルーク・ジェナーのヴォーカルだ。そのエモーショナルな熱は、はっきりとザ・ラプチャーの帰還を告げていた。
 と言っても、本作『イン・ザ・グレイス・オブ・ユア・ラヴ』はかつてのディスコ・パンクではない。この新作のサウンドを特徴付けているのはシンセの煌びやかな音色であり、サックスのふくよかな響きと多重コーラスが醸すソウルフルさ、である。アッパーなシンセ・ディスコ・ポップ"セイル・アウェイ"で幕を開ける本作だが、まるで東欧の舞踏音楽とベース・ミュージックが合体したかのような"カム・バック・トゥ・ミー"、ぎくしゃくしたファンク・トラック"ネヴァー・ダイ・アゲイン"、"キャン・ユー・ファインド・ア・ウェイ?"など、曲ごとのスタイルは多彩だ。〈DFA〉と言ってもプロデュースはジェームズ・マーフィ&ティム・ゴールズワージーではなく、カシアスのフィリップ・ズダールということもあり、全体的に派手なプロダクションが目立つ。パンキッシュなギターの音色であったり高音のパーカッションであったりする、かつてのラプチャー的な記号であったサウンドはかなり抑えられている。

 このアルバムが8年前のように、新たな時代を呼び覚ますようなことはたぶんもうないだろう。それでも本質的なザ・ラプチャーの魅力が何も変わっていないと思えるのは、ルークの不安定に音程が揺れるヴォーカルが歌うメロウなメロディのせいだろうか。そしてそれは、本作でもっとも開放されている。前作で幼児言葉を使っていたように、あるいは本作の"カム・バック・トゥ・ミー"で「僕らはみな、子供ではないの?」と繰り返すように、ザ・ラプチャーの歌にあるぎこちなさや不安定さ、頼りなさはどこか子どもの叫びを思わせる。"ジェラス・ラヴァース"において彼らがダンス・ミュージックに持ち込んだのは、そしてロック・キッズの心を動かしたのは、思春期の危うさを孕んだものではなかったか。もっともメランコリックなメロディを持つタイトル・トラックでは「きみの愛に見守られ」と繰り返しながら、「どうか僕を否定しないで」ととても心細そうに吐き出している。
 本作における最大の驚きは、"チルドレン"と題されたナンバーで訪れる。振り切れたようにポップでアンセミックなシンセ・ディスコで......眩い光が降り注ぐような多幸感に満ち溢れている。「待ってくれ/たった一人の息子/きみの姿が見える/空の上から」という歌い出しは、ルークが4年前に母親を自殺で亡くしていることも関係しているのかもしれない。「子どもたちが呼吸する/子どもたちが離れゆく/僕には見える/きみと僕の姿が」......そこに、温かいコーラスが舞い降りてくる。「子どもたち」を無条件に肯定するかのように。子どもたちの踊る姿が見えてくる。
 アルバムは感情的なアップダウンを経ながら、やはり山場となっている"ハウ・ディープ・イズ・ユア・ラヴ?"のあと、ピアノのループがとてもスウィートだが、歌はどこか頼りなげなソウル・ナンバー"イット・テイクス・タイム・トゥ・ビー・ア・マン"で幕を閉じる。欲しいものはきっと手に入れられはず、カモン、ベイビー、やってごらん......そして"ハレルヤ"のコーラスとサックスが響き渡る。不安や心細さはいつもある。だがたしかにザ・ラプチャーはディスコのグルーヴで踊っていて、頼りない子どもであることをそのまま肯定するかのように、ソウルフルな歌を懸命に歌っている。

木津 毅