ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 別冊ele-king 日本の大衆文化はなぜ「終末」を描くのか――漫画、アニメ、音楽に観る「世界の終わり」
  2. Nídia & Valentina - Estradas | ニディア&ヴァレンティーナ
  3. Bonna Pot ──アンダーグラウンドでもっとも信頼の厚いレイヴ、今年は西伊豆で
  4. K-PUNK アシッド・コミュニズム──思索・未来への路線図
  5. Neek ──ブリストルから、ヤング・エコーのニークが9年ぶりに来日
  6. アフタートーク 『Groove-Diggers presents - "Rare Groove" Goes Around : Lesson 1』
  7. interview with Tycho 健康のためのインディ・ダンス | ──ティコ、4年ぶりの新作を語る
  8. Gastr del Sol - We Have Dozens of Titles | ガスター・デル・ソル
  9. Wunderhorse - Midas | ワンダーホース
  10. Loren Connors & David Grubbs - Evening Air | ローレン・コナーズ、デイヴィッド・グラブス
  11. ゲーム音楽はどこから来たのか――ゲームサウンドの歴史と構造
  12. Columns ノルウェーのオイヤ・フェスティヴァル 2024体験記(前編) Øya Festival 2024 / オイヤ・フェスティヴァル 2024
  13. Overmono ──オーヴァーモノによる単独来日公演、東京と大阪で開催
  14. KMRU - Natur
  15. Seefeel - Everything Squared | シーフィール
  16. Columns ノエル・ギャラガー問題 (そして彼が優れている理由)
  17. interview with Conner Youngblood 心地いいスペースがあることは間違いなく重要です | コナー・ヤングブラッドが語る新作の背景
  18. Black Midi ──ブラック・ミディが解散、もしくは無期限の活動休止
  19. ele-king Powerd by DOMMUNE | エレキング
  20. interview with Sonoko Inoue ブルーグラスであれば何でも好き  | 井上園子、デビュー・アルバムを語る

Home >  Reviews >  Album Reviews > Rustie- Glass Swords

Rustie

Rustie

Glass Swords

Warp/ビート

Amazon iTunes

野田 努   Oct 31,2011 UP

 『ピッチフォーク』が本作をLFOのデビュー・アルバムに重ねて評していたが、どうだろう......新世代の到来という意味ではうなずけるが、その音楽を思えば正反対とも言える。『フリーケンシーズ』に夢中になったリスナーが『グラス・ソード』を聴いたら、その多くは拒否反応を示すだろう。
 ダブステップにしてもグライムにしてもグリッチにしても、あるいはチルウェイヴにしても、ここ数年の若い世代による打ち込みの音楽(エレクトロニック・ミュージック)と、LFO世代のそれとは音色において決定的な違いがある。初期のLFOを特徴づけるのはエレクトロ・ヒップホップからの影響とアナログ機材の音色だ。それはURを特徴づけるのがTR909のキックドラムであることと同様で、電子音とはいえアナログ機材の音色はギブソンのレスポールのように楽器そのものの音の説得力がある。ところがいまや若者にとってアナログ機材は高嶺の花で、逆に身近でコスト・パフォーマンスの優れたラップトップ・ミュージックにおいては、かつてアナログ機材で鳴らせたような音の表情はない。誰もが使えるようにと敢えてクセを避けたような、どちらかと言えばつるつるで、無味無臭の電子音だ。だから過剰にリヴァーブをかけたり、ベース音を異様にでっかくしたり、グリッチしたり、スクリューしたり、とにかくまあ、作り手はそれぞれのやり方で音を汚すことで味を出しているように見受けられる。
 が、80年代リヴァイヴァルのなかでYAMAHAのDX7の音色(80年代いたるところで使われまくって、そしてハウスやヒップホップの時代の到来とともに急速に廃れていったデジタル・シンセサイザー)までリヴァイヴァルしている現状において、はからずとも昨今のラップトップ・ミュージックの音色もあながち遠からずではないだろうか。ラスティのつやつやの、80年代フュージョンのような煌びやかな音色はむしろLFO世代が毛嫌いし、駆逐したものに近いテイストを持ちながら、それはいまベース・ミュージックの新世代(たとえば〈ナイト・スラッグス〉系とか)のなかで顕在化している。つまりラスティは新世代の到来を告げる大きな旗印のひとつには違いが、その勢いはLFO世代の美学を駆逐しかねないとも言えよう。

 『グラス・ソード』は大河ドラマのはじまりのような、なんとも大仰な、壮大なフュージョンで幕を開ける。ゾンビーはつやつやの玉虫色の音色をドラッギーに展開しているが、ラスティのそれはむしろその煌めきや滑らかさを強調する。ベースは相変わらずでかく、そして音の煌めき方ならびにその煌めきの重厚さがハンパない。ファンキーだが、ねっとりした感じはなくつるつるで、つるつるだが、いまを生きる子供たちのための騒がしい音楽だ。
 R&Bナンバーの"サーフ"では、そうした彼の音のセンスが魅力的に活かされている。うねるベースとピアノ・コードの掛け合いはデジタル・ワールドに移植されたヒップホップ・ゲットーのレイヴ・パーティのようだ。"シティ・スター"のような曲からも彼のルーツ=UKガレージをうかがい知ることができるが、ラスティの本領が発揮されているのはシングル・カットされた"ウルトラ・シズ"のような曲だろう。このすさまじい曲はなんというか......埃だらけのダブステップやグライムが、ピカピカのゲームセンターないしは大量の情報が氾濫するラップトップのヴァーチュアルな世界のなかでネオン管のような光沢を帯びながらうねりをあげているようだ。
 これはトレンドではない。エネルギーの詰まった新世代の音だ。"オール・ナイト"のようなキャッチーな曲を聴いていると、ラスティはLFOというよりもダフト・パンクになれるんじゃないだろうか......と思えてくる。

野田 努