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エアリアル・ピンクはとんでもないものを蘇らせてしまったのかもしれない。
2年前にエアリアルとヴァス・ディフェレンス・オーガニゼイション(以下、VDO)のふたり(=ランブルー&キャスティル)、そして、彼らのオケイジョナル・コラボレイターであるクリストファー・ムークによって結成されたシット・アンド・ギグルズはVDOによる奇天烈なサイケデリック・ロックを軸にしつつ、随所にエアリアルのポップ性を注入することで傑作『トリック・オア・トリート』を生み出した。『マジカル・ミステリー・ツアー』に裏街道が用意されていたとしたら確実にこのようなものになっただろうと思わせる同作は、サイケデリック・ロックの楽しさを存分に楽しませてくれる1枚であり、シド・バレットが在籍し続けたピンク・フロイドというものを夢想させるところさえあった。VDOはさらにホーンテッド・グラフィティ名義の『ビフォア・トゥデイ』でもオープニング・ナンバーのプロデュースを手がけたり、エアリアル・ピンク&アディッド・ピザズのアート・ワークにも手を広げるなど、ゼロ年代のほとんどを休止状態でやり過ごしていたことがウソのように動きがよくなっていく。そして、昨年、ついに『サスペンション』から9年ぶりとなる『ナインス・ウォード・フォース・ワールド』で現役復帰。テキサス・サイケデリックにはまだ火が灯っていることを強く印象づけた。
『ナインス・ウォード~』は、しかし、シャーマニックというか、彼らにしては抑制された曲が多かったので、90年代後半にまとめて叩きつけられた衝動をさらっと洗練させ、いささか大人びた印象のものとして聴いている側面もあった。元々、バットホール・サーファーズからハード・ロックの要素を差し引いたといえる人たちなので、『ドラッグ・バブルズ』のように比較的アグレッシヴな作風のものでも、アシッドに薙ぎ倒されていくような感覚はなく、基本的にはオプティミスティックなトリップ・ミュージックであることが彼らの特質だといっていい。これをエアリアル・ピンクに増幅されたというのか、素直にシシット・アンド・ギグルズから継承しているといえるのが復活2作目にあたる『アイ・ピールズ&ブレイン・ピックス』で、伸び伸びと広げられたサイケデリックの手はサーフ・ミュージックからテープ・コラージュまであらゆる音楽性を侵食し、最初から最後まで奇妙な音の洪水がなんの抵抗もなく頭に流れ込んでくる。これですよね。これを待っていましたよ。
意外なパーツの組み合わせが次から次へと繰り出され、次の瞬間にどこに連れていかれるのかまったく予想がつかない。少しはその流れを文章で再現してみようとトライしてみたけれど、楽しい旅行があっという間に終わってしまうように、どうも細部が捉えきれないうちにアルバムは終わってしまう。おそらく、どんな展開であったかを覚えていない方が何度も楽しめるので脳が記憶することを拒否しているのだろう。あれ、こんなところにストリングの音が......と思ったら、急にそれを遮って......そして......。こういった内容のものを音楽的な知識で喩えるのは無粋かもしれないけれど、たとえば、初期のジャド・フェアーとジ・オーブがジャムったらとか、マウス・オン・マーズに『ノイ2』をリミックスさせたら......という感じになるでしょうか。
メンバーのひとりは業界ではよく知られた音楽サイトを運営し、そこでは1日かければ100万円近くの珍盤を一気にダウンロードすることも可能である(一応、違法なのでサイト名はあげません。日本のミュージシャンもマイナーどころはかなりピック・アップされている)。そこにあげられているアルバムの大半は僕には意味不明だし、よく知られているところではジェフリー・ランダーズやF/iなどの音源はもちろん上がっていた。こういったものをあれこれと聴きこなしている人たちがさらに混沌としたものを作り出そうとしているわけだから、結果は推して知るべし。調子づいた彼らは早くも次のアルバムを来週にはリリースする予定らしい。
三田 格