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フォークトロニカとは、1990年代末のエレクトロニカ(IDM)の影響下でサンプリング・ループが使用されたロック・サウンドのように、電子音楽が注がれたフォーク・サウンドを指す。フォー・テットやカリブー(マニトバ)などがその最初の代表で、アニマル・コレクティヴのUKデビューも実はこのフォークトロニカの延長線上で起きたことだった(筆者がもっとも好きな『サング・タングス』がまさにそれで、彼らは最初のUKツアーをフォー・テットの前座としてやっている)。
フォークトロニカとは、いち部の人たちからは対極だと思われていたアコースティック・サウンドとエレクトロニック・ミュージックとの相性の良さを証明したわけだが、しかし、僕はフォークトロニカ的な展開のなかにこそ実はポップ・ミュージックの最大の面白さがあるんじゃないかと思っている。フィル・スペクター、ビートルズやビーチ・ボーイズ、こうした人たちに共通しているのは音への執着心で、ローファイと呼ばれるタームも早い話、録音物としての音質へのこだわりのひとつの表明だ。
トクマル・シューゴもスフィアン・スティーヴンズも、ジ・アルバム・リーフもフォークトロニカで、いまではそれをわざわざレフトフィールド・ポップなどとも呼んでいるが、そもそもポップがレフトフィールド(急進的)であることを内包している。
ダイアグラムスは新人ではない。ギターを弾いて歌っている中心人物は、フォークトロニカのバンド、タン(Tunng)の人。もうひとりのキーパーソン、機械を操っているのは、ロイシン・マーフィーと一緒にモロコ(90年代後半、ジャジーなダウンテンポで人気を博していた)をやっていたメンバー。ダイアグラムスにはさらにまたサブリミナル・キッド(フィーヴァー・レイとの共作でも知られる)も参加している。このバンドには実績のある人たちがけっこう集まっている。
フォークトロニカとは、実験的ではあるがリスナーを選ばず、来る者を拒まない。つまり親しみやすい。このジャンルの初期のクラシックの1枚にフォー・テットの『ポーズ』があるように、温かさもまたフォークトロニカの魅力である。春先の陽光のように、この音楽の多くは心地よい。
もちろんこのジャンルにも落とし穴がある。それは、昼間の子供番組のような、白々しいほどのほのぼのたる善意に支配された世界をねつ造してしまうことである。ダークサイド、汚れのない世界を目の当たりにすると苛つくような人には不向きな側面が多々ある。
『ブラック・ライト』というタイトルは、そういう意味では、フォークトロニカのかまととぶった態度を皮肉っている。ジャケにはカラス、うちの3歳の娘はこの絵を見て怖いと言ったが、良かった良かった(笑)。ダイアグラムスの基本は伝統的なフォーク・ロックで、甘いメロディ、アコースティック・ギターの魅力もたっぷりあって、少しばかり可笑しい電子処理がある。骨董品と最新の機械が同居する、ある種のファンタジーだ。が、ここにはたわいのない冗談、ちょっとした悪意が隠れている。
野田 努