Home > Reviews > Album Reviews > にせんねんもんだい- N
にせんねんもんだい。その妙ちくりんなバンド名を初めて見つけたときは「あふりらんぽ」「オシリペンペンズ」「ズイノシン」などの字面が頭をよぎり、勝手に関西ゼロ世代の仲間たちと思いこみ、表現の極みのようなものを想像していたのだが。いやいや、その音楽はじつにストレートにしてこの上ない熱を秘めていて、一筋縄ではいかない頑固な爆発力こそ彼らと通じるものがあるものの、冷たい金属に触れるようなきんと張りつめた空気の持続に体を硬直させたものだ。しかもその音楽を奏でているのは東京を拠点に活動する可憐な女子3人という。
そんな前置きはさておき、にせんねんもんだいの新作『N』が届けられた。2011年にリリースされたオフィシャル・ライヴ作品『NISENNENMONDAI LIVE !!!』(この日、会場にいたのだが、その発熱たるやいわく言いがたし!)で、これまでの集大成ともいえる高密度な楽曲群、そして刻々と研ぎ澄まされて増幅していくリアレンジを披露。その後も何度か彼女たちのステージを目撃していたので、次なるもんだいにこちらの耳はたしかに、よりミニマル化し、よりゼンマイ化した彼女たちを予測し、ある程度の回答を用意していたつもりなのだが......こいつはたまげた。
まぎれもなくにせんねんもんだいの音楽でありながら、こちらの想像するカラクリをはるかに上回るカラクリ。とある存在感がじりじりと迫りながらも何も起こらない。そんな事態に直面するもどかしい美しさ。そう、今年4月に行われた〈SonarSound Tokyo〉でのステージでも垣間見えたように、音のひとつひとつが極限まで精巧に研磨され、ただただただただ規則に従って並べられる。これまでわずかに顔をのぞかせていたコードリフ、メロディらしき装飾はそぎ落とされ、高田のギターはミュートしながらディレイさせる粒手のような反復リズムに徹し、時折、その上に薄雲のような効果音を漂わせる。また、地鳴りのような4つ打ちキックとチキチキ鋭く刻まれる16ビートのハイハットによる抑揚のみで空間を昂揚させる姫野のドラム(スネアすらほとんどなし)。恐るべき集中力でリズムと一体化し、高いテンションを保ちながら残像だらけのマン(ウーマン)・マシンに変ずる姿を想像するだけでスパークしてしまう。そして2013年のにせんねんもんだいにおいて、もっともキーポイントとなるのが在川のベースである。容赦なく進行する曲の中心に注意深くふいと現れ、重たくもエッジの効いたパターンをくりかえすくりかえす。その最小限の音と動きはいつしか楽曲全体を先導し、わずかに横に揺れたり、巧みなエフェクト使いで連音を紡いだりしてダンス中枢をじわじわとくすぐる。3つの点が線となり円となり、さまざまな幾何学模様を描く生成変化の瞬間に耳をそば立てると、そこにはいつもベースの絶妙な運動があるのだ。
今作『N』は、ディス・ヒートやソニック・ユースの影響を起点とし、ジャーマン・ロック~ベーシックチャンネルよろしくどんどん禁欲的にミニマルに没頭していくにせんねんもんだいの次なる一歩として、多くのリスナー/音楽家たちの憧憬と嫉妬を同時に集め続けるに違いない。皆が大好きな往年のエクスペリメンタル・サウンドに影響を受けた、とてつもなく共感を得やすい音楽性にしてとてつもなく孤高。人力ハード・ミニマルと言ってしまえば簡単だが、ほかとは違う何か。キックの強弱。ハイハットの開け閉め。ベースの抜き差し。一音の変化。慎重を極めたギターのリズム/コード・チェンジなど、大きな流れのなかの一瞬のタイミングで日常の喜怒哀楽を一気に超越する何か――そんな「ポップ・ミュージック」の謎を解く何かを求めて再び『N』を再生させる。電子ハイウェイを駆け抜けるように。くりかえしくりかえし。
久保正樹