Home > Reviews > Album Reviews > 泉まくら- マイルーム・マイステージ
たとえば、Swag。意味はいろいろあるけど、大体は自分が誇れるもの、自慢できることというニュアンスで使われる。それはオンナ、金、車、ジュエリー、時計という、いわゆるステレオタイプなヒップホップのイメージを形作るもので、これが日本人にはなかなか受け入れづらい。ヘッズは別だけどね。
ヘッズではない日本人でも腑に落ちるSwagと何か? 僕は(以前も引き合いに出したけど)KOHEI JAPAN『FAMILY』のあり方だと思う。この作品はその名の通り、自分の家族について歌ったもので、KOHEI JAPANは「家族はサイコーっしょ」という主張をSwagとして歌った。
物事の陰と陽で言えば、比較的陽の部分がクローズアップされた内容だが、リアルな描写が多く、「3年保育私立幼稚園 さらに小中高 足して12年 / 一番安くて約1000万 一番高くて5000万 / 子供2人いたらその倍だねえ 大学は行かなくていいんじゃね?」(『続・男はまぁまぁつらいよ〈オジサンの小言〉』)などのラインは取りつく島がない。僕は当時、この曲を聴いて家庭は金かかるんだ……って真剣に思った。
バブル以降の世代である僕らは、徹底して現実的な世界を生きてきた。ゆえにアメリカン・ドリーム、いわゆる立身出世の物語を本質的に理解することが難しい。アメリカではギャングがビリオネアになることをJay-Zのような一部の大物たちが体現してくれたけど、日本のヒップホップで彼らほどのサクセスを手にした人はいない。やはりそれが与沢翼では、どうにも夢がないように思える。けど、僕らに突きつけられている現実はJay-Zではなく、翼だ。このような状態で、USヒップホップのようなことを歌っても、それはリアルに聴こえるはずがないし、「結局アメリカのマネゴトじゃん」と言われても返す言葉がない。
泉まくらのSwagは女子のカルマだ。想像する性を生きる男子にとっては、一生理解することのできないリアル。それが女子のカルマだ。結局人間は他人同士で、人と人とが分かり合うということは幻想でしかない。まして違う性の生き物が何をどう感じているかなど一生知ることができない。僕らはただただ想像するだけなのだ。何が言いたいかというと、そんなものSwagにするのだから泉まくらというラッパーは相当サグな人なんだろうな、と。またそういうトピックを選ぶあたりも、日本語ラップの系譜においては、THA BLUE HERB、SEEDAらのようなラッパーの直系であるな、と感じた。
巻紗葉