Home > Reviews > Album Reviews > Nick Cave- Live from KCRW
若いみなさんはご存知かわかりませんが、ニック・ケイヴが女性からキャーキャー言われていた時期があるんです。84年から87年くらいまでの間ですかね。エコー・アンド・ザ・バニーメンのイアン・マカロック、ティアドロップ・エクスプローズのジュリアン・コープ、ザ・キュアーのロバート・スミス、バウハウスのピーター・マーフィー、ダニエル・アッシュと並んで。
シスターズ・オブ・マーシーのアンドリュー・エルドリッチはキャー、キャー騒がれていなかったような気がします。でもシスターズ・オブ・マーシーを辞めたウェイン・ハッセイが結成したザ・ミッションの初来日公演の一列めにアンドリュー・エルドリッチの遺影のような写真を持った女性がいて、ウィエン・ハッセイがぶち切れてました。
恐ろしい時代です。ピーター・マーフィーとダニエル・アッシュがいちゃいちゃしているシーンが漫画に描かれたりしていました。頽廃ですな。そんななかにニック・ケイヴも入っていたんです。いまやミュージシャンズ・ミュージシャンとしても若いアーティストから尊敬されるニック・ケイヴが、80年代の日本の少女漫画でロバート・スミスと化粧しあっているような漫画を見たら、日本は壊れているなと思うでしょうね。
何を言いたいかというと、いまの洋楽を支える人たちにはここまでのパワーはないですよね。ジェームス・ブレイクとケンドリック・ラマーが裸で抱き合っている漫画とか書かないです。
なんてことを思い出していたのですが、なんでかというとこのニック・ケイヴ・アンド・ザ・バット・シーズのラジオでの公開ライヴ(カリフォルニアのラジオ局KCRWの名物企画「アポジー・セッションズ」)がヤバすぎるのです。男が男に惚れました。80年代の日本の女性がニック・ケイヴにキャー・キャー言っていたのがよくわかる感じなんです。
とにかくいまのニック・ケイヴはヤバすぎます。バースティ・パーティーの頃の彼は、ジム・モリソンがパンクやっている感じに僕には見えたんですが、いまのこのクールさって何なんでしょうね。バット・シーズを作ったときは新しいブルースというか、これを狙っていたんですど、もっと、さらに、超越しました。レナード・コーエンの世界ですよ。パンクのなかからレナード・コーエンの領域に達した人がいたというのは本当にうれしいことだと思います。神のようです。ルー・リードもここまでこれなかったと思います。前作『プッシュ・ザ・スカイ・アウェイ』もよかったですけど、僕はこのライヴをまずみなさんに勧めます。聴いてみてください。震えてください。
久保憲司