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Hakobune

AmbientDroneElectronica

Hakobune

Looping Around The Forest I Thought I Remembered

Constellation Tatsu

Amazon iTunes

久保正樹 Mar 03,2014 UP

 世界各国のDIYレーベルから息つく暇もなく刺激的なドローン/アンビエント作品をリリースし続けるHakobuneこと依藤貴大。ある種の音響に耳のピントが合うものには、その名前はそこかしこで見聞きしたことがあるはずだ。2007年に京都を拠点に活動を開始。さまざまな手法で膨大なヴァリエーションのドローンを制作するほか、自身のレーベル〈トビラ・レコード〉を主宰。さらに四谷の文化サロン喫茶茶会記にて、東京で日々更新される実験音楽の現在を切り取ったイヴェント「音ほぐし」を冷泉、笹島裕樹と共同企画するなど、その影響はいまこの瞬間もゆるやかに広がり、美しい波紋様を描きながら世界の隅々にまで浸透している。
 
 そんなHakobuneがカリフォルニアのカセット・レーベル〈Constellation Tatsu〉からリリースした通算47作め(!)となるアルバム『Looping Around The Forest I Thought I Remembered』についてものする前に、ドローンがポップ・ミュージックの一要素として認知されはじめたころを回想してみる。それはSNSの普及により誰もが世界と接続可能になった時代よりも前のことであり、カセット・メディアへの再注目も手伝い、世界中に心あるスモール・レーベルが誕生した「テン年代以降」のノイズ/ドローン・シーンが形成される前の話。
 個人的音楽体験と照らし合わせてしまうが、その隆盛のきっかけはジム・オルークとデヴィッド・グラブスによるアンチ・ロック・アヴァン・デュオ=ガスター・デル・ソルの存在にあると考える。シカゴ音響派と呼ばれた彼らが実験音楽の老舗〈テーブル・オブ・ジ・エレメンツ〉からガスター史上もっとも緊張を強いられる問題作『ザ・ハープ・ファクトリー・オン・レイク・ストリート』をリリースしたのが95年(そこではヒステリックなドローン、けたたましい室内楽、調和しないピアノ、グラブスの歌、打楽器のような鍵盤が次々と連続する)。また、ヴァイオリン・ドローン〜ミニマルの巨匠トニー・コンラッドとのスプリット7インチをリリースし、さらに、同レーベルからオルークがプロデュース、グラブスがギターで参加したトニー・コンラッド至宝の名盤『スラッピング・ピタゴラス』がリリースされたのもこの年。ここでインディー・ミュージックとアヴァンギャルドの間でなにがしかの橋渡しがなされたことは間違いないだろう。それまでは現代音楽用語でしかなく、せいぜいザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンドにおけるジョン・ケイルやその周辺(永久音楽劇場など)の所業を語る際に使われていたドローンがじわじわと地下から浮上し、エクスペリメンタル・ミュージックの名の下に地表に姿を現し、じりじりとポップ・シーンににじり寄りはじめたのだ。  

 さて、このドローン。もともとは間断することなく永久に続くかのような持続低音を指していたが、いまやその定義もあいまいとなり、一部のアンビエント同様、ある種のムードをたたえた、またそれに支えられた音楽になってしまっているような気もするが、いかがだろう? 
 しかし、しっかりと耳の折り目を正して音と対峙してほしい。明らかに中凡なものとは異なる確固たる内面性をもった、ただのスノビズムに終わらない趣深い実験に出会えるはずだから。  

 そこでHakobuneだ。86年生まれということなのでシカゴ音響云々なんて過去のもの。まさに身の周りにはテン年代以降の音響がすでにある世代。そして彼のドローン原体験がいったい何だったのかは不詳だが、Hakobuneが鳴らす豊かな音を聴くかぎり、新旧問わず世に漏れ落ちた潤沢なドローン/アンビエントを耳に留めては吸収し、自分のものにしているのは間違いないだろう。そして彼の出自が(シカゴ音響派の連中の多くがそうであったように)ハードコアにあることも興味深い事実だ。途切れることのないクリエイティヴィティ、静かに燃え立つDIY精神。時にストイックでハードボイルドな音を奏でるHakobuneだが、今作ではじつにまろやかな耳触りの音を鳴らし、四辺の空間をギタリストならではの美しいハーモニクスでまるごと包みこむ。  
 
 直訳するならば「記憶していたはずの森を彷徨うこと」と名づけられたこの作品。ご本人に話を訊くと、昔祖父とよく行った地元・兵庫の森にインスパイアされた作品だという。なんでも、帰省した折、ふと思い立って20年ぶりにその森に入ったものの道に迷い、数時間彷徨ったあげくようやく入った場所とは別のところから出てこられたという。そのまま帰宅し、ギターとエフェクターを用意して制作された6曲。そこには彼が彷徨い(ループし)ながら目にしたいつまでも続く同じような森の景色があり、迷いこんだ不安とは異なる精神の昂揚があり、そこはかとなく浮流する郷愁がある。ミズナラ、ブナ、モチノキ、ボダイジュ、ニレ、クスノキと、その森にあった木々から採られた曲名も味わい深く、すべての曲がジャスト5分で収まっているところにもドラマを感じて何だかざわざわと動揺してしまう。わずかに変化するギターフレーズ。その重なり合いのはざまに生じる陰影や色調。深いリヴァーブに包まれたロマンチックな旋律。森の中で体験した静かな昂揚と少しの不安が音となり、光となり、眩しく甘美なサンライト・ドローンとなって木立からカーテン状に降り注ぐ。濃くがあるのに淡味であり、淡味であるのに濃くがある。それはたどる記憶とゆらぐ時間を繋ぎとめて結晶化した永遠の30分を約束する。

久保正樹