Home > Reviews > Album Reviews > Bohren & Der Club of Gore- Piano Nights
活動歴約20年、ジャーマン・ドゥーム・リドゥン・ジャズ・カルテットによる3年振りのフル・アルバム。グラインドコアやドゥーム・メタルの文脈から結成されたボーレンは90年代初頭、いまや伝説であるオランダのインスト・メタルバンド、ゴア(Gore)に触発され、その名を冠し、いまのサウンドの原型が出来上がったとかなんとか……とディスコグ的能書を垂れてみましたが、おそらく多くのリスナーが彼等のレコードを聴きながらイメージするのはひとつ、ブラック・ロッジ@ツインピークス。
アンジェロ・バダラメンティによる本家のサントラもLAの新世代ゴス・キッズを引率するマウント・アナログが主宰するサントラ再発レーベル、〈デス・ワルツ〉によって2LPの再発も控えているワケで、ローラ・パーマーがブラック・ロッジでクーパーに語りかけた「25年後に会いましょ」がファンの手によって現実のものとなったのだ。
話がだいぶ反れました。ローラとかオードリーの話になるとつい熱くなってしまうのはみんないっしょでしょう。『ピアノ・ナイツ』なるボーレンの最新作の肝心のサウンドは……うん、いままで通りです。ん? いや、いままでよりメランコリックなメロディと上モノドローンが強調されているがゆえに重みが少し減ったので、これはさらに多くのリスナーにも受け入れられるかもしれん。とはいえ、個人的にボーレンはゴッド・スピード(・ユー! ブラック・エンペラー)と並ぶ、過去20年間でもっとも多くのアーティストに絶大な影響を与えた(良くも悪くも)バンドであったことは間違いないのだ。名は明かせねど、ローファイ・インディーからドゥーム・ゲイズまで、さまざまなカテゴリーにおいてボーレンをヒントにスタートしたバンドは数知れず。しかし、時間が止まるほどスローに展開される(この『ピアノ・ナイツ』の楽曲ではそこまで溜めてないけども)、ジャズと呼ぶにはあまりに重々しい世界。もはや職人芸と呼べるこの「間」は誰も真似できないのだ。おそらく昨今のトレンドなどまったく意識してないであろう男達の美意識がここにある。
倉本諒