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Atom™ & Marc Behrens

AmbientElectronicNoise

Atom™ & Marc Behrens

Bauteile

Editions Mego

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デンシノオト   Apr 15,2014 UP

 90年代のエクスペな音楽状況を振り返ると、当時それなりに知られていたにも関わらず、いまではほとんど忘れ去れているシュトック、ハウゼン&ウォークマンというユニットを思いだしてしまう。

 彼らはモンドでラウンジな60年代のレコードのサンプリングによるコラージュ・アート、そのサウンド版といった趣のアナーキーなユニットだった(リーダーのマット・ワンドはユニット結成以前、デレク・ベイリーのカンパニーで活動していたらしい)。デビュー・アルバムは91年リリース(2001年解散)。ユニット名の元ネタは、いうまでもなく有名な某プロデューサー・チーム、そして、あの超有名現代音楽家との掛け合わせというヒトをくったもの。もともとはジャンク&ノイズ&スカムな音楽といえる彼らの音楽性だが、95年にリリースされたネコちゃんジャケのアルバム『ヘアボールズ』が、小山田圭吾や緒川たまきによって紹介されたこともあって、一気に「中期渋谷系基本アイテム」化した雰囲気もあった(実際はどうか知りません・笑)。つづく96年リリース『オーガン・トランスプランツ Vol. 1』もモンド/ラウンジな傑作。そう、90年代中期は「グランジからラウンジ」だったのだ。

 このアトム™とマーク・ベーレンス『Bauteile』を聴いたとき真っ先に思い出したのは、シュトック、ハウゼン&ウォークマンだった。テクノからヒップホップ、ガレージ・ロックからアンビエント、フリージャズから電子音楽/音響まで圧倒的な情報量が接続されていくコラージュの技法に、90年代型のサウンド・コラージュ作品の2010年代版という印象を聴き取ったからか。それゆえアフター・モンド・ミュージックを感じたからか。

 90年代。モンド・ミュージックの時代。サンプリングによるサウンド・コラージュの時代。少しだけそんな時代を振り返ってみると、異論はあるかもしれないが、95年あたりからこのシュトック、ハウゼン&ウォークマンを巻き込むカタチで起きていたムーヴメントがいわゆる「モンド・ミュージック」ブームである。「モンド・ブーム」は、60年代~70年代の知られざる音楽たち(モダンなムード・ミュージック、奇天烈な電子音楽、ソフトロック、サイケロックなどなど)を発掘すること(DJ的な行為・およびその真似事という名の単なるリスナー)と、それをサンプリングして楽曲に取り込むこと(音楽家的な行為)の二つからはさみこむことで成立していた。その価値観の中心は、80年代までの「名盤ガイド」には掲載されないような音楽を積極的に再評価すること。それが折からのDJブーム、サンプリング・ブームと並走するかたちで人気・支持を得たものであった。

 もちろん、これは日本独自のものではなくて、たとえば米国『リ・サーチ』誌などの先駆的な例があってのこと。とはいえ日本でのモンド需要は日本ならではの特殊性もあって、90年代初頭に60年代~70年代のフリーソウルやソフトロック、サントラ・ブームなど「名盤ガイドに掲載されていない」レコを発掘し、元ネタとして自作に取り込む「渋谷系」というムーヴメントからシームレスにつながるかたちで存在していた点だ。90年代中盤頃、渋谷系ムーヴメントは、お洒落悪趣味路線(ザックリ書けばデス渋谷系や雑誌『クイック・ジャパン』など)へとシフトしつつあり、90年代中期のユースカルチャーの空気とモンド的センスは結びつきやすかった。結果、スムーズに渋谷系→モンド系へと移行ができたのではないかと思う。たとえば95年刊行の『モンド・ミュージック』にこんな内容の記事があった。「モンド・ミュージック」のメジャーからのアイコンとでもいうべきビーチボーイズ=ブライアン・ウィルソン=『スマイル』をめぐるテキスト内で、フリッパーズ・ギターのファンと思える男女が、レコ屋で“ゴッド・オンリー・ノウズ“がかかった瞬間に「コレ誰ですか!」と店員に詰め寄ったという描写がなされているのだ。

 90年代中期(97年くらいまで)で、「世界同時渋谷系化」などといわれたり、ピチカート・ファイヴやコーネリアスが高い人気を得たのも、その音楽的な力量は当然として、このようなレコードを選ぶ/聴く、「目(耳)利き」的なセンスが、世界/ニッポンの音楽的潮流とリンクしていたからのように思えるのだ。60年代~70年代の誰も知らないセンスのいいレコを、90年代的なセンスで編集するようにセレクトすること。それが日本の渋谷系からモンド・ミュージック・ブームで共有されていた空気だった。ちなみにモンド・ミュージックは、その後期(99年あたり)においてシカゴ音響派にもつながり、キー人物はジム・オルークとなる。結果、日本では渋谷系→モンド・ミュージック→シカゴ音響派とつながっていく。そもそもニッポンにおいて「モンド」と「音響派」はそう遠くない起源を持っているのだ。

 今回取り上げる、アトム™とマーク・ベーレンスの『Bauteile』を聴いたとき、即座に浮かんだのが以上のようなキーワードだった。シュトック、ハウゼン&ウォークマン。モンド・ミュージック。90年代。ポップのいかがわしさと、人工的なリゾート感。サンプリング・コラージュ。音響派。00年代的エレクトロニカ。もちろん、『Bauteile』はそれらとは違う。そもそも時代が違う。だが音楽のコラージュ、過去の音楽のリサイクル的なコラージュ感、そして何より、ポップ感に近いものを感じてしまったのだ。ほとんどサンプリングを用いない自分音源によるテン年代のシュトック、ハウゼン&ウォークマン?(アトムとマークが80年代からやりとりをしていた音源が素材だという。また、多少なりともレコ音源などのサンプリングはあるように思える。終盤に出てくるサックスなど)。

 ちなみにアトム™は、テクノからラウンジ、エレクトロニカからアンビエント、ラテンからモンドまで、20世紀のポップの記憶をエレクトロニクス・ミュージックに圧縮するような曲を作りつづける多作なアーティストだ。モンド・ブーム時にはリサ・カーボンのアルバムをリリースした(名盤)。そしてときおり挿入される硬質なノイズは、マーク・ベーレンスのものか。ベーレンスはアトムとは正反対といっていい作風のサウンド・アーティストで、インスタレーション作品なども制作している。昨年ポルトガルの美術館から刀根康尚の素材を用いた音響作品『イレギュラー・キャラクターズ』をリリースしており、刀根的なグリッチ音とマーク・ベーレンスの物質的な音がぶつかり合う傑作であった。そして『Bauteile』にも似たような音の質感が感じられた。

 CDを再生すると、冒頭はまず低音の持続。そして微かなノイズとカタカタと鳴る音、声(の痕跡のような音)などが折り重なる。やがて弦の音やアコーディオンがサウンド・ロゴのように鳴り響く。そこから4分後くらいにはビートが鳴りはじめ(すぐに消えていく)、エレクトロ、ヒップホップ、エレポップ、テクノ、ハウス、ガレージロック、フリージャズ、ノイズ、アンビエントなどが次から次へと音の坩堝のようにコラージュ/エディットされていくのである。その圧倒的な情報量には耳もクラクラしてしまう。

 この本作のコラージュ感は、サンプリングによるコラージュというよりも、PC内でのデジタル・エディットだからこそできる過剰な情報量が圧縮されている点が大きな特徴だろう。90年代のシュトック、ハウゼン&ウォークマンが、レコード「サンプリング」のコラージュ・アートとしたら、テン年代の『Bauteile』は、過剰な情報の「コピー&ペースト」のコラージュ・アートだ。そして現在「コピー&ペーストなコラージュ・サウンド」は進化の只中にある。彼らよりも若い世代のワンオートリックス・ポイント・ネヴァーなども「コピー&ペーストなコラージュ・サウンド」を生み出している。その意味でワンオートリックス・ポイント・ネヴァーはデジタル時代のシュトック、ハウゼン&ウォークマンである。

 いまという時代は、異なる世代が20世紀大衆音楽の記憶をコピー&ペーストするコラージュ・ミュージックを制作している時代とはいえないか。そして、この『Bauteile』には、モンドから音響派までの音楽的な変化が圧縮されている。それは20世紀の大衆音楽の記憶だ。さらに重要なことは、この「コピー&ペースト・コラージュ・アート」は歴史を無化するものという点である。となると、これは20世紀を真に忘却するための儀式なのではないか、とわたしなどは思ってしまうのである……。

デンシノオト