ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Brian Eno ──ブライアン・イーノがレーベル〈Opal〉を再始動、あわせて00年代の2作品がリイシュー
  2. Arca - XXXXX
  3. interview with Actress UKテクノ界の奇才が語るみずからの哲学 | ──アクトレス、インタヴュー
  4. 細野晴臣 - Yours Sincerely | Haruomi Hosono
  5. Klara Lewis - Opening | クララ・ルイス
  6. R.I.P. 鷲巣功
  7. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  8. Loraine James ——ロレイン・ジェイムズの新作、突如のリリース(しかも無料DL)
  9. interview with Cameron Picton (My New Band Believe) 元ブラック・ミディのキャメロン・ピクトン、新バンドにかける想い | ──初のアルバムを送り出したマイ・ニュー・バンド・ビリーヴ
  10. ele-king vol.37 ボーズ・オブ・カナダ大研究/サイケ&ドリーミー特集
  11. interview with caroline いま、これほどロマンティックに聞こえる音楽はほかにない | キャロライン、インタヴュー
  12. Future Sound of Jazz ——蘇る「フューチャー・ジャズ」、ドイツの〈Compost〉の人気シリーズが16作目
  13. This Is Lorelei - The Singer in My Band | ディス・イズ・ローレライ
  14. 異次元の常識──パンク/ハードコアの思想とメッセージ
  15. interview with Wendell Harrison 音楽の楽園=デトロイトから、ウェンデル・ハリソンがファラオ・サンダースとサン・ラーの思い出を語る
  16. 別冊ele-king 坂本慎太郎の世界
  17. RYUICHI SAKAMOTO + SHIRO TAKATANI AMBIENT KYOTO - TOKYO -
  18. Tohji - angel
  19. Kim Doeon - SLAPSTICK | キム・ドオン
  20. Arca - &&&&&  | アルカ、Jesse Kanda,Distroid

Home >  Reviews >  Album Reviews > The Correspondents- Puppet Loosely Strung

The Correspondents

GlitchSwing

The Correspondents

Puppet Loosely Strung

FROM.OUR.OWN

ブレイディみかこ   Apr 24,2014 UP

 エレクトロ・スウィングというUKでちょっとした盛り上がりを見せているシーンがある。スウィング・ジャズとハウス、ヒップホップ、エレクトロ・ダンスの交合によって生まれたこのジャンルは、90年代に出現してなんとなく消えたスウィング・ハウスの流れを汲むと言われているが、数年前から復活の兆しを見せており、わが街ブライトンはロンドンと並ぶその聖地に数えられている。
 2009年にこのジャンル専門の初めてのパーティ、ESC(エレクトロ・スウィング・クラブ)がロンドンに登場すると、それに呼応してブライトンにもホワイト・ミンク・クラブが現れ、ロンドンのESCとブライトンのホワイト・ミンクはUKエレクトロ・スウィング界の2トップになった。ブライトンに同性愛者やアナキストが多いということはこれまでも書いてきたが、ブライトンについて言われているもうひとつの要素としてクラブが多いということがあり、骨董の街ということもある。なのでエレクトロ・スウィングのメッカとなる地盤はあった。UKのイビサとも呼ばれるブライトンのクラブ文化と、骨董品屋や古着屋が立ち並ぶザ・レインをうろつくレトロな若者の文化が交合すれば、それはそのままエレクトロ・スウィングというジャンルそのものになる。
 んなわけで、ブライトンのホワイト・ミンクとロンドンのESCは、このジャンルのアーティストやDJをキュレートして様々なダンス・イヴェントを主催しており、The Correspondentsもその周辺から出てきたアーティストである。ロンドン在住のDJ Chucksとフロントマンのイアン・ブルース(この人は将来を期待される画家でもあり、Courvoisier社の「英国の未来を担う全業界混合500人」のひとりにも選ばれた)のデュオであるThe Correspondentsは、イヴニング・スタンダード紙に「キング・オブ・ヒップホップ・スウィング」と称された。その形容がぴったりだったEP「What's Happened to Soho?」を聴いたときには、わたしは少なからず動揺したのであり、“Washington Square”のPVを見たときには、「オスカー・ワイルドがラップしてる」と思ったものだった。

 同曲や“Jive Man”など6曲が収録された2011年リリースのEP「What's Happened to Soho?」は「これがエレクトロ・スウィングだ!」とジャンルを丸ごとぶち投げて来た点で、本当はあれこそが彼らのデビュー・アルバムになるべきだったと思う。というのも、待ちに待っていた彼らのファースト『Puppet Loosely Strung』は、彼らを以前から知っている(とくにステージ)人間からすると、「へっ?」な違和感があるからだ。
 これはおそらく、彼らがエレクトロ・スウィングという狭いサークルから卒業し、ポップ界への進出を宣言したアルバムなのだろう。だからこそスウィングのエレメントは希薄になり、代わりに80年代エレクトロ・ポップのフレイヴァーが色濃く加味されている。リスナー層を広げたいという野心が本来の持ち味を薄めたと思うと悲しいが、それでも『Puppet Loosely Strung』はここ数カ月間わたしが一番聴いているアルバムである。全くそこにある必要性を感じない冒頭曲をすっ飛ばして2曲目の“Fear & Delight”から聴けば、これはこれでやはり新しいムーヴメントの息吹を感じさせるし、昨年のMelt Yourself Down同様、理屈や薀蓄抜きでまず踊れるのがいい。『華麗なるギャツビー』のリメイク映画のサントラでブライアン・フェリー・オーケストラやウィル・アイ・アムもそれっぽいことをやっていたが、アンダーグラウンドなエレクトロ・スウィング・シーンの熱さを伝えるのはやはり彼らのような人々のサウンドだ。

 それと呼応するのかどうかはわからないが、日本では、菊地成孔がホットハウスというダンスパーティを主催していると聞いた。紙版エレキングで、ペペの新アルバムが『戦前と戦後』というタイトルであることを知り、そう言えば、スウィング・ジャズが流行したのも第二次世界大戦の直前だったのだよなあ。なんてことを考えていた。

          *******

 話は唐突に変わるが、4月前半は日本にいた。
 今回の帰省でこれまでにない衝撃を受けたのは、「(戦争は)100%ないとは言い切れない」と言った人がいたことである。
 スウィング・ジャズが流行したのは……。とまた眉間に皺を寄せて考えそうになったが、ふと、ケン・ローチの『The Spirit Of 45』のBGMにもスウィングが使われていたことを思い出した。終戦直後の英国人たちが、戦争に勝った名相チャーチルではなく、地べたの庶民のための政治を選んだピープルズ・パワーの時代にも、あの音が鳴り響いていたのである。
 そして今。
 21世紀のブロークン・ブリテンのアンダーグラウンドでエレクトロ・スウィングが鳴っている。
 と書くと過剰に浪漫的かも知れないが、そのサウンドをヒットチャートに入れる可能性を持ったアーティストがいるとすればThe Correspondentsだ。というのはしごく現実的なファクトである。

ブレイディみかこ