ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Columns The TIMERS『35周年祝賀記念品』に寄せて
  2. Saint Etienne - The Night | セイント・エティエンヌ
  3. COMPUMA ——2025年の新たな一歩となる、浅春の夜の音楽体験
  4. まだ名前のない、日本のポスト・クラウド・ラップの現在地 -
  5. Félicia Atkinson - Space As An Instrument | フェリシア・アトキンソン
  6. ele-king presents HIP HOP 2024-25
  7. Whatever The Weather ──ロレイン・ジェイムズのアンビエント・プロジェクト、ワットエヴァー・ザ・ウェザーの2枚目が登場
  8. Columns ♯9:いろんなメディアのいろんな年間ベストから見えるもの
  9. Terry Riley - In C & A Rainbow In Curved Air | テリー・ライリー
  10. Columns 永遠の「今」──ジャジューカを求めて
  11. interview with Shuya Okino & Joe Armon-Jones ジャズはいまも私たちを魅了する──沖野修也とジョー・アーモン・ジョーンズ、大いに語り合う
  12. VINYLVERSEって何?〜アプリの楽しみ⽅をご紹介①〜
  13. Columns Talking about Mark Fisher’s K-Punk いまマーク・フィッシャーを読むことの重要性 | ──日本語版『K-PUNK』完結記念座談会
  14. 忌野清志郎 - Memphis
  15. Saint Etienne - I've Been Trying To Tell You  | セイント・エティエンヌ
  16. Masaya Nakahara ——中原昌也の新刊『偉大な作家生活には病院生活が必要だ』
  17. Caterina Barbieri - Myuthafoo | カテリーナ・バルビエリ
  18. Columns Dennis Bovell UKレゲエの巨匠、デニス・ボーヴェルを再訪する
  19. ele-king vol.34 特集:テリー・ライリーの“In C”、そしてミニマリズムの冒険
  20. interview with YURUFUWA GANG ゆるふわギャングがぶっ壊しにキタ!

Home >  Reviews >  Album Reviews > Plaid- Reachy Prints

Plaid

ElectronicaTechno

Plaid

Reachy Prints

Warp/ビート

beatkart Tower HMV Amazon iTunes

木津毅   May 23,2014 UP

 いつだったかプラッドのライヴを観たときに、夕暮のなかを鳥の群れが飛んでいく映像を使っていたのをよく覚えている。それは彼らが鳴らす情緒的な電子音の戯れにじつによく溶け合っていたが、映像を見ているわたしたちの記憶のなかにもその風景はすでにあったはずである。ノスタルジックな感慨を抱かせる以前に事実として記憶を喚起させる。自分のなかでプラッドというと、鳥のシルエットがオレンジ色の背景を漂う姿がいつも浮かんでくる……それはプラッドがライヴ用に「作った」映像なのか、自分が実際に見た風景なのか、いまではもうわからない。

 誰もが円熟と言っているプラッドの10作め『リーチー・プリンツ』にはなるほど、新しいものがない代わりに彼らがこれまで長い時間をかけてきたものがよく練磨されており、聴いているわたしたちの25年の記憶をどこまでも曖昧にしていく。考えてみればオウテカの『エクサイ』もそうだったし、ボーズ・オブ・カナダの『トゥモローズ・ハーヴェスト』もそうだった。90年代の〈ワープ〉を特徴付けた、IDMのオリジネーターたちの作品群が内的な歴史を意識させるものにならざるを得ないのは、それだけ彼らの功績が大きかったということだろうし、20年という時間はじゅうぶんに長かったということなのだろう……リヴァイヴァルが決定的なものとなる程度には。『リーチー・プリンツ』には覚えやすく耳触りのいいメロディがふんだんに収められていて、それはブラック・ドッグ・プロダクションズから分断されるものではない。プラッド時代に移ってからでも、いつ聴いても心地いい『レスト・プルーフ・クロックワーク』や『ダブル・フィギュア』……から、滑らかに連なっていてる。ハープの音色が導入となる“オー”から、三連符の繰り返しが緩やかに高揚へと誘う“ホークモス”、華麗なオーケストラが展開される“リヴァプール・ストリート”まで、その優美さはますますきめ細かくなってはいるが。基本的にはリスニング向けに作ってあるが、“テサー”のようなずっしりとしたビートの曲にはダンスの感覚がないわけでもない。
 そして本作のテーマはまさに「記憶」であるという。アートワークでは自身のレントゲン写真に慣れ親しんだ環境の風景が重ねられているそうだが、それはまさに「自分」の「頭のなか」で起こっていることだと示すイメージである。それこそは20年前にアーティフィシャル・インテリジェンスが提唱したものであり、あらためて視覚化されているというわけだ。『リーチー・プリンツ』を聴いていると、この四半世紀の電子音楽のサウンドの冒険、ベッドルームでの戯れが浮かんでは消えていくようだ。わたしたちの「頭のなか」のエレクトロニック・ミュージックの記憶が、そこでこそ響き合っている。それがノスタルジーになってしまう前に、侵すことのできないドリーミーな領域を守り続けるように。

木津毅