Home > Reviews > Album Reviews > Burial Hex- In Psychic Defense
今年のはじめごろ、ブリアル・ヘックス(Burial Hex)が初めてLAでショウをおこなうとのことでEBMやミニマル・ウェーヴなんかのパーティをガンガン推している寝床から、近所のハコ、〈コンプレックス〉に観に行った。かなりキモかっこ良かった。90分近い、終始スーパー・ラウドなロングセットを飽きさせず……いや、途中のドローン・パートで一服していたけれども、充実したパフォーマンスであった。いったいどこからこんなに湧いてきたのか、ショウに群がるLAのゴス女子は不思議とメンヘラ感が薄い。カリフォルニアの気候とゴス、情熱的なラテン系女子とゴス、自然な調和をみせる光と影かな、などとゴスな衣装に包まれるたくさんの谷間やケツを目で追っていたから妙に満足しただけかもしらんが。
話がだいぶ逸れた。アメリカ中西部のド田舎、ウィスコンシン州マディソンを拠点に活動する暗黒電子音楽家クレイ・ルビー(Cray Ruby)ことブリアル・ヘックスに僕はデビューから現在に至るまで毎度、黒くてぬるっとした感銘を受けている。ホラー・エレクトロニクスと形容されるクレイのサウンドはインダストリアル、儀式音楽、アンビエント、フリー・インプロヴ、サイケ・フォーク、ネオクラシカル、コズミック・シンセジス、ブラック・メタル、といったアンダーグラウンド・ミュージックに湧き出る黒い泉の水にディスコの油を加えて完成させたエリクサーである。その完璧な配合は錬金術師クレイにしかおこなえない。書いていることがだいぶ中2じみてるな。クレイいわくブリアル・ヘックス(埋葬された呪い)は地底深くに隠されたある種のエネルギー・サイクルであり、それはヒンドゥー教の宇宙論において循環するとされる4つの時期の最終段階、万物が破滅にいたる終末の状態を表すそうだ。カリ・ユガ(Kali Yuga)である。なんのこっちゃ。
ブリアル・ヘックスのサウンドを単なる中2で終わらせないのは、そのオカルトな思想体系や芸術的探求心のズブッズブなドープさ、それにギリギリ悪趣味にならない完璧なバランスで成立する比類なきトラックの完成度にある。
サイキックTVやメルツバウのリリースでもお馴染み、ノイズ/ゴス系大御所レーベル、〈コールド・スプリング(Cold Spring)〉から前回ココでレヴューした『惑わしの書(Book of Delusion)』に引きつづき、12インチや7インチ、テープなどのキラーなトラックだけを集めたコンピレーション・アルバム『心霊の護り(In Psychic Defense)』(同名タイトルの12インチも存在するので注意)が発売された。これがまた名曲揃いで、購入後にディグりがいのある音源だ。それに、毎度毎度僕のお気に入りの映画のシーンを持ってきては勝手にミュージック・クリップにしてやがるのも気になりやがるのだ。前作、『惑わしの書(Book of Delusion)』のタイトル・トラックではフェリーニのローマだし、
今作に収録される“ハンガー”にいたっては僕もその昔自分のバンドのライヴで濫用していたマヤ・デレンの『ディヴァイン・ホースメン(Divine Horsemen)』だし! おまけにリリックはランボーの詩だし、
ラストの“ザ・タワー”はデレク・ジャーマンの『セバスチャン』だし……
このトラックは収録されなかったが、“ザ・ナイト”のリリックはリルケの詩だし、
今作に収録される7インチにカットされたトラック“ファンタジー”はピュンピュン系のアシッド嫌いの僕でも聴き入るほどキモかっこいい名曲だ。ぜひダンスフロアで聴きたい。
かつてのニノス・ドゥ・ブラジル(Ninos Du Brazil)のニコ・ヴァセラリとクレイのコラボレーションであったアート・インスタレーション、『I hear a shadow』の共鳴から連なる暗闇からのズンドコの誘いはこんな現代だからよく響くのかもしれない。CDなんで手に入りやすいと思います。
倉本諒