Home > Reviews > Album Reviews > 禁断の多数決- エンタテインメント
歌詞は謎めいていて、ライヴはほとんどしないで、インタヴューは人を食ったようで、しかし、たしかな音楽性でファンを獲得する禁断の多数決が、〈術ノ穴〉から新作をリリースした。新作『エンタテインメント』は、新曲3曲にリミックスを加えた全6曲で構成されたEPのかたちをとっている。
彼らが〈術ノ穴〉から新作をリリースすることについては、それなりに驚きもあったが、少し考えれば必然性も感じる。トラックメイカー・ユニットのFragmentが主宰するこのレーベルは、最初期こそ良質なヒップホップ/エレクトロの作品を送り出すことで評価を得ていたレーベルだったが、近年ではジャンルに限定されない活動が広い支持を集めている。一方、禁断の多数決も、前作『アラビアの禁断の多数決』で、エレクトロ・ハウス調からR&B風、あるいはワールド・ミュージック的な意匠の曲まで、多様な音楽性を発揮していた。さまざまなジャンルを現代的な感覚で昇華するというありかたにおいて、なるほど禁断の多数決と〈術ノ穴〉は、とても相性が良い。
本作冒頭を飾る“ちゅうとはんぱはやめて”は、遅めのビートとシンセサイザーが印象的な曲で、恋愛なのかなんなのか、という「ちゅうとはんぱ」な人間関係について歌ったものである。この曲では、〈術ノ穴〉からの鮮烈なデビューも記憶に新しい泉まくらが客演に迎えられているが、この起用が見事である。というのも、泉まくら以外のパートが抽象的・比喩的に「ちゅうとはんぱ」な人間関係を歌うのに対し、泉まくらはもっと具体的・現実的に「ちゅうとはんぱ」な人間関係をラップする。もちろん、そんなはっきりと抽象的/具体的と分けられるわけではないのだけど、両者の歌詞世界の対比が、とてもおもしろかった。この対比をなぞるように、泉まくら以外の部分にコーラスが重ねられていたり、リヴァーブが強く効いていたりする一方で、泉まくらのラップは生身の声に近いのも緊張感があっていい。とくに中盤、泉まくらが「中途半端だから中途半端にしか君の気持ちは気にならない/中途半端だから中途半端にしか知ったところで傷つかない」と、歌うようにラップを聴かせる展開が印象深い。禁断の多数決が披露してきた現実離れした世界に、泉まくらがヒリヒリした感覚――主題こそ違えど、それこそ奥村チヨの「中途半端はやめて」のような!――を持ち込んだようで聴きごたえがある。
この曲は、Tomgggと食品まつり a.k.a. foodman がリミックスをしている。Tomgggのリミックスは、小西康陽感すら感じさせるストリングスありトイピアノありのウワモノに、多種多様なビートが展開する力作。一方、食品まつりのリミックスは、アンビエントのトラックに歌声がダブ加工されたもので、Tomgggの楽しいリミックスとは一転して暗い雰囲気になっている。この方向性がまったく異なるリミックスを聴き比べるだけでも楽しい。しかし特筆すべきは、どちらのリミックスもそれなりに禁断の多数決らしい曲に聴こえてしまうことである。最近はメンバーの流動性もうかがえる禁断の多数決は、依然としてなかなか全貌をつかませないが、そのことはかえって、どんなリミックスや音楽性にも耐えうるような幅広さに通じているのかもしれない。Fragmentによる“秘密の世界”のエレクトロニカ/音響派的なリミックスは、もはやほとんど原曲のかたちをとどめていないが、全6曲を通して聴けば、このリミックスすら禁断の多数決ワールドの一環として聴くことができる。
本作『エンタテインメント』は、禁断の多数決による「エンタテインメント」がいかに広い振れ幅を持っているかを示している。客演、リミックス、コラボレーション……――これからファンの予想を裏切って、さまざまな活動を展開することを楽しみにしたい。ちなみに“秘密の世界”を聴いたとき、オリエンタルなテクノポップの雰囲気に、細野晴臣が作詞作曲をした小池玉緒“三国志ラヴ・テーマ”を思い出した。ファンの予想を裏切る活動ついでに、まことに勝手ながら、ぜひ“三国志ラヴ・テーマ”のカヴァーをリクエストしたい!
矢野利裕