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Foxes in Fiction

Dream popIndie RockPsychedelic

Foxes in Fiction

Ontario Gothic

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岡村詩野   Sep 17,2014 UP

 ドリーム・ポップとされる音楽がだんだんと苦手になってきている。いや、嫌いではない。いまも折に触れて若い世代のそれらのバンドは聴くし、彼らの源泉にあるとされるコクトー・ツインズやディス・モータル・コイルといったバンド、あるいはその後輩にあたる90年代に人気を獲得したラッシュ(ミキちゃんエマちゃんの方)などは当時から大好きだった。もっともそのころはドリーム・ポップなんて言い方はまだなかったわけだが、その幽玄の美を讃える幻想的なサウンドは、カッチリとしたプロダクションで形成されるポップスのマジョリティへのカウンターとして重要な役目を果たしていたからだ。オブスキュアな演奏で、アレンジ面でも極端なヴァリエイションがなかったとはいえ、メロディを軸にしたコンポジションがしっかりとしていたのも武器となっていたわけし、ティム・バックリィやビッグ・スターといったアーティストを再評価する先鞭をつけたのもこの第一世代だった。

 しかしながら、結論を先に書いてしまうと、ここに届いたフォクシーズ・イン・フィクションのニュー・アルバムは、おそらく今回もドリーム・ポップとして語られることだろうが、久々にカウンターとしての役割、離れた世代の音楽との繋ぎ役などいくつもの複合的なファクターを持った作品だと感じる。

 初来日時に取材で話を聞いたディアハンターのブラッドフォード・コックスは、シューゲイザーやドリーム・ポップと言われる音楽が表面的な心地良さ、快楽で聴かれることに抵抗を示していた。いわく、エスケーピズムとされる感覚がシューゲイザーやドリーム・ポップの根底にあるとしても、一体どこからどこへ逃避するのかをしっかり提示しないといけないのではないか、と。それについてはもう全面的に同意するところで、轟音やノイズに包まれていても、そこを歌詞と演奏で明確にカタチにしているからこそディアハンターは魅力的なのだし、このフォクシーズ・イン・フィクションの新作からもその意識が伝わってくるのが何よりいい。もちろん、ただいたずらに気持ち良い音楽があってもいいんだけども、ぼんやりしていたり、崩れ落ちそうだったり、煙にまかれそうだったりする音楽には、音作りの現場での哲学や思想が、ぶっとい柱のように鎮座してもらっていた方が絶対におもしろいと思うのだ。それこそ、心地よいクセにアクのつよいブライアン・イーノの作品のように。

 そこで、このフォクシーズ・イン・フィクションの新作『オンタリオ・ゴシック』に注目してみると、まず今作最大のトピックはオーウェン・パレットがストリング・アレンジで全面参加をしているということだろう。もともとこのフォクシーズ・イン・フィクションは、カナダはトロント出身で現在はブルックリンに拠点を置くウォーレン・ヒルデブランドが15歳の頃にサンプル・コラージュ・プロジェクトとしてスタートさせたユニット。2010年に、まずはダウンロード販売され、その後、〈ムードガジェット(Moodgadget)〉から発売されたファースト・アルバム『スワング・フロム・ザ・ブランシェズ(Swung From the Branches)』で注目を集めたこのフォクシーズ・イン・フィクションだが、当時それほど愛聴するに至らなかったのは音作りの焦点が絞れていないように感じたからだ。コラージュという手法からヒントを得た音の歪みを心地よい響きへと昇華させるアイデアはたしかに興味深かったが、まだメソッドから得られる感触にのみ終始している印象もあった。だがこの2作めは、オーウェンが手がけた壮大なストリングスがクラシカルな音の広がりを見事に讃えているばかりか、怪奇的とさえ言える頽廃様式美にしっかりと寄り添った仕上がりに導かれている。たとえばそれは、スティーヴン・キング、フィッツ=ジェイムズ・オブライエン、そしてもちろんエドガー・アラン・ポーといった小説家たちの作品の持つダーク・ロマンティシズムに近いかもしれない。女性ヴォーカルを多く配した曲自体は、一聴すると、儚い美しさや幻覚的な快感をオーウェンのストリングスによって見事に表現してはいる。その意味ではオーケストラル・ポップの新しい動きとみることもできるだろう。

 だが、それ以上に、病や死をモチーフにした超絶主義に根ざした作品のようにさえ感じるのだ。聞けば今作、16歳で亡くなったというウォーレンの弟の喪失感に向き合いながら、徐々に立ち直っていくプロセスを一つのテーマにしているのだという。こうしたゴシック的喪失感をこれまでルー・リードやティムとジェフ・バックリィ親子、ジョニー・キャッシュら多くのアーティストたちが漆黒の悲しみを孕ませて作品にしてきた。本作はそういう意味では、サウンド的には異なるためやや乱暴かもしれないが、それらダーク・ロマンティシズムの潮流で聴かれるべき作品なのではないかと思うのだが、どうだろうか。

岡村詩野

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