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リドリー・スコットが『ブレードランナー』(1982年)を再映画化するという話はどうなっているのだろう。同監督の『エイリアン』(1979年)の前日譚だという『プロメテウス』(2012)を観たときに、いや、いまこの壮大なSFをやるんだったら『ブレードランナー』をやってしまえば思いっきりインなのに、と思った記憶がある。80年代をリアルタイムで知らない世代の、後追いの記憶によるいくぶんノスタルジックなリヴァイヴァルに、当時なら見事にハマったはずである。『プロメテウス』と同時に『ブレードランナー』を再見したのだが、そこには記憶にあったよりもずっと朗らかな近未来が描かれていた。キャッチーなディストピアとでも言おうか、『プロメテウス』の徒労感や空虚さに比べてよっぽど愉快なものに感じられたのだ。
シュローモやバスとも交流があるLA拠点のプロデューサー、ヤスパー・パターソンによるプロジェクト、グラウンディスラヴァによるサード・アルバム『フローズン・スローン』はサイバーパンクの影響下にあるという。たしかに言われてみればタイトルからしていかにもだが、それで思い出したのがヴァンゲリスによる『ブレードランナー』のあの大仰なサウンドトラックである。24歳のパターソンにリアルタイムでの記憶はないだろう、が、いわゆる名作として幼少期に80年代SFに触れている可能性は大いにある。『フローズン・スローン』はおそらく、そのおぼろげな記憶とインターネット以降のビート・ミュージックの知識が合体したものである。
はじめはいまの若いビート・メイカーらしく、多彩なリズムによる完成度の高さに耳を引かれた。基本ハウス・ビートが多いものの、“ターミネイト・アップリンク”でドラムンベースがさらっと出てくる辺り、語彙の豊富さを窺い知れる。が、それよりも耳に残るのはよく歌うメロディだ。それはゲスト・ヴォーカルのスムースな歌だけではなく、いやそれよりも、クセのあるシンセ。オープニングの“ガール・ビハインド・ザ・グラス”からして、メランコリックやアンニュイというよりは過剰にドラマティックに響くシンセ・サウンドは、なるほど音そのものよりもエモーションの込められ方が80年代シンセ・ポップを思わせる。前作『フィール・ミー』のバスが参加していた“スーサイド・ミッション”(……タイトルがいかにもバスだ)のようなナイーヴさよりも、全編にわたって参加しているレア・タイムスのヴォーカルによるアダルト感が前に出ていることもあるだろう、これまでよりもリヴァイヴァル感は強く、そして腰が砕けそうにキャッチーだ。ミニマルなハウス・トラック“オクトーバー パート2”のセクシーな歌と軽々しいシンセの絡みは華やかというかもはやチャラいが、だからこそ踊る足取りも軽くなる。いまの20代にとってディストピアはこの現実世界に探すよりも、80年代SFに見つけることのほうが愉しいことなのかもしれない。ラスト、“スティール・スカイ“は「鋼の空」という重々しいタイトルとは裏腹に、その空を突き破っていくような開放感に貫かれたハウスである。
木津毅