ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Adrian Sherwood and Nightmares On Wax UKダブ・“トーク”・セッション | ――エイドリアン・シャーウッド×ナイトメアズ・オン・ワックス特別対談
  2. Gaku Kiishi ──『サイコ』『オーメン』『シャイニング』『リング』から『8番出口』『バックルームズ』まで、ホラー映画の音楽を分析する1冊が刊行
  3. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  4. Black Marble - Life in Small Spaces | ブラック・マーブル
  5. The Clash ——ザ・クラッシュ、結成50周年記念ベストがリリース
  6. Bicep ——バイセップが3つの新曲で、フリー・パーティ、レイヴ、サウンドシステム文化を主張する
  7. RYUICHI SAKAMOTO + SHIRO TAKATANI AMBIENT KYOTO - TOKYO -
  8. Horse Lords - Demand to Be Taken to Heaven Alive!  | ホース・ローズ
  9. sugar plant ──2026年を締めくくるライヴが11月21日に開催
  10. AMBIENT KYOTO ──2027年春、レイ・ハラカミの展示が決定
  11. R.I.P. 鷲巣功
  12. interview with Boom Boom Satellites 明日は何も知らない | ブンブンサテライツ(中野雅之+川島道行)、インタヴュー
  13. R.I.P. Miru Shinoda 追悼:篠田ミル
  14. Nondi_ - Nondi... | ノンディ
  15. Columns ♯17:もしもパンクがなかったら ——その基礎知識と『パンク50周年記念号』刊行のお知らせ
  16. aya ——アヤの過激なセカンド・アルバムは3月28日に〈ハイパーダブ〉からリリース
  17. Robert Del Naja ──マッシヴ・アタックの3D、二度目の逮捕
  18. Malaria! ——80年代初頭の西ベルリンから、ポスト・パンク/アヴァンギャルド・シーンを象徴する最重要バンド、マラリア!再発
  19. interview with Toshimaru Nakamura 世界を魅了する、類い稀なる電子音響 | ──中村としまる、待望の初期ベスト盤リリースと超ロング・インタヴュー
  20. 食品まつり a.k.a foodman - HIKARIGASASHIKOMU

Home >  Reviews >  Album Reviews > Half Japanese- Overjoyed

Half Japanese

ExperimentalIndie RockJunkLo-Fi

Half Japanese

Overjoyed

Joyful Noise

Tower HMV Amazon iTunes

久保正樹   Sep 26,2014 UP

 もとはといえば、ジャド・フェアとデヴィッド・フェア兄弟が74年に自宅で結成した(ピストルズよりも早く、ラモーンズと同じ年!)生粋のアメリカ人ユニットのくせに、「半分日本人」などと人を食ったようなバンド名を掲げるこのハーフ・ジャパニーズ。おふざけにもほどがありますね。筆者もそうなのだけれど、90年代初頭にインディ・ミュージック・シーンを席巻した(?)ジャンク/スカム〜ローファイ・ムーヴメントのあおりで、彼らのキテレツな音楽を知った人は多いかと思う。もしくは、カート・コバーンが自死したときに着用していたというTシャツからか? いや、もっともっと若いリスナーなら2011年にリリースされたジャドとテニスコーツの共作『エンジョイ・ユア・ライフ』でだろうか。

 そんな長い歴史をもつハーフ・ジャパニーズにまつわる人脈をたどると、新旧オルタナティヴ・シーンの何某かが見えてくる。一時期バンドに在籍し、黄金期を支えた〈シミー・ディスク〉の総帥でありプロデューサーのクレイマー、ドン・フレミング(ヴェルヴェット・モンキーズ/ボールほか)。元ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのモー・タッカー。ジョン・ゾーン、フレッド・フリスらダウンタウンのフリーミュージック一派。ソニック・ユースにヨ・ラ・テンゴ。同じ香りしかしない盟友ダニエル・ジョンストン。そして、共作もリリースしているパステルズやいまも交流が続くティーンエイジ・ファン・クラブら英国勢。さらに日本のイシマルーからテニスコーツまで、まるでレッド・クレイオラのメイヨ・トンプソンばりの吸人力でその周りに愉快な仲間があつまるあつまる。

 さて、ハーフ・ジャパニーズの新作がリリースされた。じつに13年ぶりの出来事である。気がつけばデヴィッドも正式メンバーから外れているけれど、それはここでは野暮な話。ジャド・フェアがいて僕たちがいる。もうそれだけでハーフ・ジャパニーズなんだから。しかし、本作、ジャドのヘロヘロわめいて、コロコロ転がり、ペチャクチャしゃべりたおす愛くるしい歌こそまったく変わらないものの、バックの演奏がひと味ちがう。例のごとく、崩壊すれすれのところで綱渡りをかましてなんとかギリギリセーフ! そんな危なっかしいガレージ・パンクはいつもどおりだが、ポンコツ感というよりも端正なアヴァン・ポップ感が耳についてすごくヒート・アップする。それもそのはず、今回のメンバーに名を連ねるのは、90年代初頭からハーフ・ジャパニーズとして苦楽を共にする、元デビル・メントール〜アンサンブル・レイエのジャイルス・V・レイダー(ドラム/シンセサイザー)、90年代USジャンク/スカムの最重要レーベル(いやマジで!)〈メガフォン〉の張本人ジェイソン・ウィレット(ベース)。そして、そこに加えて、元ザ・ワーク〜オフィサー!〜ザ・モームスのミック・ホッブスもギターで参加しているのだ! というわけで、ニューウェイヴ〜レコメン色が濃ゆ〜い内容となった本作は、90年代オルタナティヴがもっていたラフな感触が緊張の糸をほどいたかと思えば、次の瞬間、巧妙に、スピードに乗った複雑なアンサンブルが再び緊張の糸をむすび直したりしてテンヤワンヤ。ハラハラドキドキ。じつに大忙しなのである。

 そんな、いつになく建築的(?)な演奏とは裏腹に、まっすぐすぎるがゆえにあらぬ方向にねじ曲がるジャドのロックン・ロールへの愛情。ぐるぐるぐるぐるとぐろを巻いて、じりじりじりじりねじりはちまき状態になって、ねじれすぎてプチンとちぎれて、そのちぎれた先には何もない。答えは風の中になんてない。それはいたってシンプル。もはや、狂喜(not 狂気)と衝動だけをぶら下げたジャドの表現行為は、「ストレンジ!」という常套句を期待する僕たちのあざとい思考を余裕で飛び越えて、考えても考えてもまったくもって正解の出ない「爽快なもどかしさ」を投げかけてくれる(アートワークにあしらわれた、お馴染みのジャドによる切り絵からもほっこりとした物語とリズムを感じとれるが、その奥にあるモチーフはまったく謎だらけ……)。

 ささやかな幸福感への扉をいくつも用意して、聴くものを選ばずに手招いてくれる妖精のようなおじいちゃん。世界の片隅で、「愛」と「モンスター」を叫ぶ60歳のパンクスを想像してみよう。これはもう奇跡の野蛮である。

久保正樹