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エコヴィレッジはエミール・ホームストロムとピーター・ヴィクストレームによるスウェーデンのシューゲイズ風味のエレクトロニカ・デュオである。
彼らのデビュー・アルバム『フェニックス・アステロイド』(2009)は、アメリカのレーベル〈ダーラ〉からリリースされたことでも知られている。このアルバムは、多幸感に満ちたサウンドが魅力的で、海外メディアの評価も高かったと記憶している。同作は、日本のレーベル〈クインス・レコード〉からもリリースされたので聴かれた方も多いのではないか。
その作風はただしく「00年代的なエレクトロニカ経由のシューゲイズ・サウンド」であった。夢見心地な電子音とギターサウンドが交錯するサイケデリック・エレクトロニカ。そう、ウルリッヒ・シュナウスに代表されるあの音。個人的にはマニュアルあたりも連想した(どうやら二人とも『フェニックス・アステロイド』を絶賛したらしい)。そのトラックは、ありがちな雰囲気ものではなく、しっかりと作り込まれた見事なもので、音楽の制作・構築に対して誠実に向き合っているという印象を持った。
2011年には、フランスのレーベル〈ベコ・DSL〉から、シングル「ロンダ・デ・サント・ペレ」を配信。2年後の2013年には、イギリスの〈パララックス・サウンド〉からセカンド・アルバム『ウィズ・フラジャイル・ウィングス・ウィ・リーチ・ザ・サン』を配信オンリーでリリースした。
そして本年2014年、サード・アルバム『ワン・ステップ・アヴァーヴ』がリリースされる。しっかりと作りこまれたポップ・サイケデリックなエレクトロニック・アンビエント・アルバムだ。アンビエント? そう、『ワン・ステップ・アヴァーヴ』は、これまでの彼らのアルバムに比べ、ヴォーカルが大幅に減少し、まるでマニュエル・ゲッチングのエレクトロニカ版とでも形容したい桃源郷の音世界が展開しているのである。この変化に最初こそ驚いたものの、いままでもシューゲイズの霧のむこうにアンビエントな音世界が展開していたのだから、むしろ必然的な進化といえよう。ヴォーカルは音の層の中に溶け込んでいったのだから(声はドローン的な音響となってレイヤーされている)。
さらに注目すべきは、緻密にしてダイナミックビートのプログラミングである。曲によってはヒップホップ的なブレイク・ビーツ感も醸し出されており、それが楽曲全体にポップネスを与えているようにも思えた。
緻密なサウンド・メイクはビートだけではない。上モノの太陽の光のようなアンビエンス/アンビエントな層も、太陽のように眩いギター・フレーズも、ビートとともにボトムを支える多彩なベース・ラインも、ひとつひとつがじっくりと旋律や音色が選ばれているように感じた。登山のように山頂を目指して一歩一歩、時間をかけて制作されたアルバムともいえるだろう。
だからといって堅苦しい音楽ではけっしてない。どの曲も陽光のような心地よさを放つサイケデリック・エレクトロニクス・アンビエント・ミュージックだ。
1曲め“ユー・ゴッド・ミー”は、マニュエル・ゲッチングからマーク・マクガイアを思わせるミニマル/サイケデリックなギターの音からはじまり、聴き手をこの上ない多幸感へと誘う。やがて深いキックのビートが加わり、トラックは、さらにダイナミックに。上モノはギターに加え、柔らかいシンセ音も鳴り、まるで自然の陽光のような眩さを放つ。
つづく2曲め“エターナル・サンライズ”は、ブレイク・ビーツ風のビートに、シンセのアンビエンス、エレピのような軽やかな音が重なり耳をくすぐる。3曲め“イット・ウィンド・エンド・イン・テアーズ”では、スローなダウンテンポなトラックが展開され、4曲め“ウィンズ・オブ・ザ・モーニング”では、オールドスクールなシンセベース音に、リヴァーブの効いたキック&スネア、ダイナミック/サイケデリックな電子音が交錯していく。
以降の楽曲も、ビート、アンビエント、サイケデリック感が交錯し、天国へと上昇するような、もしくは睡眠の底へと潜るような快楽を与えてくれる。そして、ラスト10曲めアンビエント・トラック“モメンツ・オブ・ディヴァイン・ハーモニー”にたどりつく頃には深い安息の中にいるだろう。そして、さらなるリピートへ……。
このアルバムには、何度も聴きたくなる魅力がある。心地よいエレクトロニクス・アンビエントだからという理由もあるが、何よりも緻密に丁寧に、まるで工芸品を磨き上げるように作られた楽曲群だからではないかと思う。エコヴィレッジは「アルバムを作る」ということに非常に誠実に向き合っている。そのアルバム制作への誠実さは、一曲、一曲すべてに行き届いた細やかな音への気配りに、しっかりと現れているように思える。だからこそ聴き手は、彼らの作り出す音のシェルター(決してネガティブな意味ではない)に安心して入り込んでいけるのではないか。
エコヴィレッジ。彼らはエレクトロニカ時代の自然主義だ。その「自然」はエレクトロニクスよって生まれた人工的なものかも知れないが、とても安心できる自然=音楽空間なのである。いわばシェルターとしての人工的な自然感覚。私はこれからも何度も本作をリピートするだろう。この天国的な音の横溢を耳に注入し、騒がしい世界から(ひとときの)離脱をするために……。
デンシノオト