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Slackk

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三田格   Nov 20,2014 UP

 『イン・ディス・ワールド』や『グアンタナモ』など政治的な映画を撮ることが多いマイケル・ウインターボトム(日本では『24アワー・パーティー・ピープル』がもっともよく知られているか)の『グルメトリップ』を観ていて、久しぶりに会う親子がドアを開けるなり「ノー・ポリティクス、サンキュー」と言い放つシーンがあった。これまでにどれだけ言い争ってきたかということだけれど、このセリフが耳から離れなくなって、『ele-king vol.14』の第2特集で使うことにした。自分たちがノン・ポリだということもあるし、このところの政治の話題は本当に遠ざけたいほどヒドいものばかりだということもある。あれは本当に心の叫びなんですよ。驚いたのはリチャード・D・ジェイムズで、軽くあしらわれると思っていた政治の話題に彼は、セカイ系的なニュアンスではあるけれど、多少なりとも言葉を返してくれた。しかも、彼が伝えようとしている内容はそれこそ「ノー・ポリティクス、サンキュー」と同じようなことである。一冊の雑誌のなかで同じテーマが入れ子状に絡み合っていると評してくれたのは〈ゼロ〉の飯島さんだけれど、ある種の音楽と政治は似たような距離にあるのかもしれないと、それこそ錯覚を覚えてしまいそうな符号だった。これを編集部はコンテクストとして自覚するべきで、ビジネスマンたちが好んで使うバンドル・メディアの必須条件と考えるべきなんだろうけど、「ぼさ~っとすること」という105ページの見出しにいつも心は飛んでしまう。ぼさ~っとしたいよなー。ノー・ワーキング、サンキュー……。

 ラッカー(Lakker)の8枚めのシングル『マウンテン・ディヴァイド』は意表をつくノイジーな歪みが非常に気持ちよかった。そして、それ以上に予想外だったのがポール・リンチによるアンビエント・グライムである(……という言い方は誰もしていないけれど)。なるほど打ち込み方はグライムのリズム・パターンだし、そもそもデビュー・シングル「テーマEP」(2010)はベースメント・ジャックスが派手にブリープ音を撒き散らしているような曲だった。それがどんどんスタイルを変えていき、何をやろうとしているのかさっぱりわからない時期を経て(とくに『フェイルド・ゴッズ(Failed Gods)』)、ついに新境地を切り開いたのである。ガッツである。UKガラージはまだまだポテンシャルがあるんだなーというか、そもそもスラック(slack)というのは「ユルさ」という意味だから、字義どおりに収まったといえばそれまでなんだけど、それにしてもおもしろい展開である。『やしの木が燃える』というヴィジュアルもアーサー・ライマン(『アンビエント・ディフィニティヴ』P.21)とはきっとなんの関係もないだろうし、発想の源がまったくわからない。いや、とにかく変わったことをやってくれました。

 フロアユースか否かという耳で聴くと、このアルバムはおそらくどこにも行き場はない。クラブ・ミュージックであるにもかかわらず、そのような対立項とは無縁の場所で音は鳴りつづけ、アンビエント・グライムとは書いたものの、チル・アウトにはまったくもって適していない。中途半端に身体は触発され、気持ちだけが宙に吊り下げられたまま全15曲がさまざまなイメージを展開していく。なんというか悶え苦しみながら少しずつカラダが聴き方を覚えてくると、後半に入ってワールド色が薄く滲み出したり、さらにはエイフェックス・ツインめいたりしながら、いつまでも宙吊り状態を維持してくれる。いい感じである。何度聴いても的確な言葉が浮かんでこない。

 現在はロンドンがベースで、昨年末にUKガラージの変化球として『コールド・ミッション』が話題になったロゴスらとボックスドというDJチーム(?)も組んでいるらしい。ロゴスことジェイムズ・パーカーもけっこうな変則ビートを聴かせる逸材で、どこか通じるものもなくはないけれど、急速にファッション化しつつあるインダストリアルの要素を引きずっていたロゴスとは違い、スラックはむしろ 対照的にハッパの世界観を一気に更新した感がある。それこそブライアン・イーノ『アナザー・グリーン・ワールド』(1975)のガラージ・ヴァージョンというか。アーサー・ライマン→ブライアン・イーノ→『アーティフィシアル・インテリジェンス』→『パーム・トゥリー・ファイアー』と、20年おきに受け継がれたシミュレイションの引き延ばしがここまで達している。これは、つまり、「ぼさ~っ」としたい人たちがいつも一定数いるということだろうな……。

三田格