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『ファンタズマ』『ポイント』、その後日談 三田格
20年ぶりに歯医者に通っている。かつて泯比沙子は、♪歯医者のない街へ~と歌って歯医者嫌いに勇気を与えてくれ、ザ・スミスによる“世界万引き同盟(Shoplifters Of The World Unite)”のメンタリティに肉薄したけれど(してないか)、要はいい歯医者に当たるかどうかだったみたいで、結果、30年ぶりに右側でもモノが噛めるようになり、何か食べるたびに右肩の僧帽筋が筋肉痛になっている。そして、僧帽筋が徐々に鍛えられることによって中学生の頃からはじまった偏頭痛が少し和らいだような気もしている。ダンス・カルチャーで劇的に変化した身体性がここへ来て、また、大きく変わろうとしている。すべては歯だったのかもしれない……。
いくつかの曲ではビートがあまり打たれず、場合によっては10cc“アイム・ノット・イン・ラヴ”の長いインタールードのようにドローン状のテクスチャーで聴かせているものの、リズム感は非常にしっかりとしていて、ヴェイパーウェイヴにありがちな勢いで聴かせる面も皆無。シカゴ・ハウスとJ・ポップがここまできれいに混ざり合うかと思った“まぼろし”やドビュッシーを坂本龍一が適度に俗っぽくしたような“Moonlight”など、だら~んとハンモックに揺られているような聴き心地が最後まで持続する。派手に開陳はしてないけれど、けっこう音楽の素養もあるのかもしれない。少なくとも以前、サウンドクラウドに挙げられていた音源よりは多彩になっている。
かつてコーネリアスが『ファンタズマ』(1997)をリリースした頃、当時の情報環境が目まぐるしく詰め込まれたものだと評され、そこから差し引ける要素をあらかた取り去ったものが、続く『ポイント』(2001)だとされた。『ホワイト・ガール』に感じるのはその中間のような佇まいで、当然のことながら当時とはまったく異なった情報環境が彼(彼女?)を取り巻いていることがここからは窺い知れる(「1_WALL」のグランプリを取った寺本愛のアートワークにも)。コーネリアスの整理能力にはもちろんセンスがあり、そこに日本でしか生まれないものがあると考えられたことを思い出すと、『ホワイト・ガール』が意味しているものは「その後日談」だというのは言い過ぎだろうか。オウガ・ユー・アスホールのサウンドを構成する要素のひとつに「歌謡曲」があるとしたら、ここには確実に「J・ポップ」があるし、どちらも「新しいサウンド」だと感じられるとしたら、その対比も興味深い。とはいえ、その情報環境を探るべく、ツイートを見てみたら、こんなものがツイートされていた。つい、見ましたけどね……。
https://twitter.com/mus_hiba/status/525584831216766977
三田格
佐々木渉、三田格