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Kaitlyn Aurelia Smith

Kaitlyn Aurelia Smith

Euclid

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三田格   Jan 16,2015 UP

 2014年はディズニーの年だった。世界歴代5位の興行収入となった『アナと雪~』はもちろん、メアリー・ポピンズの作者を主役としたジョン・リー・ハンコック監督『ウォルトディズニーとの約束』もディズニー自身の夢を描くという骨子はけして悪いものではなく、アドラーの流行を尻目にフロイトの底力を思い知らされる面もあった。さらにはブラック・ユーモアを全開にしたランディ・ムーア監督『エスケープ・フロム・トゥモロー』である。ディスニーランドのダークサイド(とされるもの)をここまでがっつり見せてくれた作品も珍しく、上映中止にもDVDの回収処分にもならなかったことがかえってディズニーの度量を感じさせる作品ともいえる。ファンタジーの王道と、それを作り出す人、そして、それを裏側から叩きのめす3本が出揃っただけでなく、どこから見てもファンタジーには価値があるということを認めさせた年だったのではないかと。まあ、そういうことにしてケイトリン・アウレリア・スミスのデビュー・アルバムを再生してみよう。そうしよう。

 オーカス島というリゾート地で育ったからということが説明になるとは思えないけれど、なるほどテリー・ライリーのミニマル・ミュージックに影響を受けたというケイトリン・アウレリア・スミスはこれをニュー・エイジ風の幻想的なアレンジのなかに解き放ってしまう。あるいはタイトル通り、前半の6曲はユークリッド幾何学を用いて作曲されたと解説され、どこがどうしてそうなのかはわからないけれど、その響きは柔らかい布を積み重ねていったようなしなやかさと可愛らしい質感に満ちている。ふわふわとこちょこちょ、キラキラとさらさらという感じだろうか。シンセサイザーと出会う前はムビラ(親指ピアノ)に凝っていたそうで、高音が多用されるアフリカ音楽のテクスチャーを思わせる面も多い。ローリー・シュピーゲルやスザンヌ・チアーニ(『アンビエント・ディフィニティヴ』P.96)といった70年代の先駆的な女性作曲家たちに、ヒッチコック映画の音響効果を担当していたオスカー・サラ(『アンビエント・ディフィニティヴ』P.36』)にも多大な影響を受けたそうで、あらゆるところからファンタジーを集めてきたようなニュアンスはそれで説明されてしまうような気も。マスタリングはマシューデイヴィッド。

 後半は12パートに分かれた組曲形式の“ラビリンス”。それこそテリー・ライリーのフェミニンな変奏である。もともと、シュトックハウゼンと袂を分かつことがテリー・ライリーの出発点だったことを思うと、アカデミックな要素がまるでなく、むしろニュー・エイジへと接近させることはライリーの本意にかなうことなのかもしれない。寄せては返す主題の変奏と穏やかな質感の持続はスティーヴ・ライヒを取り入れたティム・ヘッカーやアレックス・グレイ(DPI)でさえマッチョに感じさせなくはないものがあり、ドローンだけでなく、ミニマル・ミュージックにも女性によって書き換えられる面があったとことに気づかされる。12パートは、そして、あっという間に終わる。

 ディズニーが本気だなと思わせたのは、『アナと雪~』の4ヶ月後に公開されたロバート・ストロンバーグ監督『マレフィセント』も「男性を必要としないフェミニズム」を同じように打ち出していたから……かもしれない。『眠れる森の美女』を魔女の視点から捉え直した同作は、エルザがさらに心の醜い存在へと成り果てた状態といえ、子どもにもわかりやすいゴシック・ファンタジーとして仕上げられた。『アナと雪~』とは正反対に突き進んでもなお、「男を必要としない」女性像が子どもたちの心に刷り込まれたのである。結果が楽しみだなーと思いつつ、ガゼル・ツインことエリザベス・バーンホルツのセカンド・アルバムを再生してみよう。そうしよう。

 ブライトンというリゾート地で育ったからということがまったく説明にはならないように、フードで顔を隠し、ヴォーカルは時に男の声に変調させ、絶望的なダーク・ウェイヴを聞かせる『アンフレッシュ』は、早くも『キッドA』(レイディオヘッド)を書き換えたという評が飛び出るほどガキどもの心には染み通っているらしい。明らかに気持ち悪さを強調したようなシンセサイザーはインダストリアル・ヴァージョンのポーティスヘッド、ないしはホラー・ヴァージョンのFKAツイッグスといった感触を最後まで貫き、暴力性を自己へと向けざるを得ない女性の姿を浮かび上がらせる。体の線を覆い尽くしていることやアルバム・タイトルもそうだし、シングル・カットされた「アンチ・ボディ」など肉体嫌悪がその根底をなしていることは想像にかたくなく、フランケンシュタインが子どもを生みたくなかった女性のファンタジーであり、ゲイの監督が映画化したものだという構図がここにはまだ生きていることを思わせる。


三田格