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毛玉

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デンシノオト   Jan 30,2015 UP

 おおらかなメロディに、朴訥とした歌声。揺らめく光のような演奏に、緻密で繊細なサウンド・プロダクション。これぞまさにテン年代型のポップ・ミュージック/バンド・サウンドである。もしくは2010年代のサイケデリック・サウンドである。そう、毛玉のファースト・アルバム『新しい生活』のことだ。

 毛玉は黒澤勇人が2012年に結成したバンドである。メンバーは黒澤勇人(ヴォーカルとギター)、井上俊太郎(ベース)、露木達也(ドラムス)、上野翔(ギター)、落合四郎(キーボード)。いわゆる「うたもの」バンドと(ひとまずは)言える(むろん彼らはそんなカテゴライズなど無関係だ)。2012年に『毛玉EP』、2013年に『バイパスEP』を配信オンリーでリリースした。
 黒澤はもともと実験/即興音楽シーンで個性的な演奏していた音楽家だったが、いま、こうして歌い出した(もしくは、歌っていた?)。しかし、あらゆる音楽には必然しかないのだから、彼にも必然性があったのだろうし、ゆえに毛玉も生まれたのだろう。音楽を奏でるには/歌うには、確固たる理由がある。むろん、その理由の本質は、音楽を作る人にしかわからないものだが、そこに強固な偶然と必然があることは聴き手にも確実に伝わってくる。すべては音楽の中に、回答はあるのだから。つまりは聴けばわかる。
 本アルバムは、佐々木敦主宰の〈ヘッズ/ウェザー〉からリリースされた。CDの帯で90年代の「シカゴ音響派」について触れられているが、たしかにジム・オルーク『ユリイカ』を想起させる。表面上の音楽性の類似ではない。両者とも「即興と実験」を経由した音楽家に生まれる「歌うこと/音楽を奏でること」の必然性がある点だ。ここにおいて音楽は形式を超えて、「トーン」において繋がっていくことが証明されている。

 個人的なベスト・トラックは10分52秒にもおよぶ5曲め冬眠”だ。耳鳴りのような無機質な持続音に、ドラムの一打、また一打、そこに柔らかな音色のギターがフレーズを奏で、黒澤が訥々と歌いはじめる。「あの人が森の中で春を待つ」と。そのミニマルなアンサンブルは、やがてピンクフロイドのようなサイケデリック・アンサンブルへと展開していく。
 6曲め“春風”の疾走感も堪らない。そして7曲め=ラスト曲“しあわせの魔法”にいたっては涙するしかない。曲が終わり堪らず冒頭の“花粉症”へとリピートしてしまう。すると街中のフィールド・レコーディング音にギターが優しく鳴りはじめ、リズムとベースがバウンスする。左チャンネルの謎のリズム音。黒澤の歌声がクセになる。フォーキーな曲に聴こえつつも、曲構成はトリッキーで、リズムはファンキーですらある。そしてやはり左チャンネルの謎の音。まさに「新しい生活」がはじまるような曲。完璧な1曲めと最高のラスト曲に挟まれたアルバムは大抵、傑作なのだ。
 そして全曲、とにかく音がいい。いわゆる高音質ではなく、説得力のある音。とくにエレクトリック・ギターの音が本当に素晴らしい。覚醒と陶酔が同時に巻き起こる。マスタリングを手掛けたのは、宇波拓である。

 また一聴すれば、本作もまた「はっぴいえんど以降のニッポンの音楽」(佐々木敦『ニッポンの音楽』)の系譜とでもいうべき、「リスナー型音楽」の最前衛(普通の顔をしながら!)に佇んでいることがわかるはずだ。ロックからサイケ、プログレからレコメン、即興から音響派まで、さまざまな音楽の要素が見事に(微かに)、「うたもの」という音楽フォームの中に圧縮されている。2曲め“バイパス”でほんの一瞬、小さく鳴る「ピッ」という音を聞き逃してはならない。
 つまり、このアルバムが『ニッポンの音楽』の著者でもある佐々木敦のレーベルからリリースされたことにも強い必然性がある。この幸福な出会いを「しあわせの魔法」と呼ばず何と呼ぼうか。

 そして加藤遊と加藤りまによる兄妹ユニット、ファミリーベイシックのファースト・アルバム『ア・フォルス・ダウン・アンド・ポスチュマス・ノートライアティ』も必然性に導かれた音楽といえよう。
ファミリーベイシックは2007年に結成され、音響作家アスナ主宰の〈aotoao〉の『UMUリミックス』や『カシオトーン・コンピレーションVol.5』に参加する。本作のリリースは畠山地平主宰の〈ホワイト・パディ・マウンテン〉からで、マスタリングも当然、畠山地平が手掛けている。ジャケットのデザインはアスナ。ジャケット絵は天本健一である。

 本作は兄・加藤遊によって全曲の作曲・作詞・録音・ミックスが行われている。彼は90年代に渡英し、当時のインディ/オルタナシーンを体感してきたという。妹・加藤りまは90年代にネオアコ・ユニット、ストロオズのメンバーであった(彼女は、〈フラウ〉からソロ・アルバム『フェイントリー・リット』をリリースしたばかりだ。こちらも深い森を漂うようなフォーク・ミュージックで素晴らしい作品)。

 本作の1曲め“ザ・ラスト・ファイン・デイ・オブ・マイ・ライフ”を聴いたとき、私はレッド・クレイオラが1996年に〈ドラッグシティ〉からリリースした『ヘイゼル』、その1曲め“アイム・ソー・ブレイズ”を思い出した。メロウで、達観していて、でも奇妙で、しかしポップな、あの曲を。『ヘイゼル』はジム・オルーク、ジョン・マッケンタイア、デヴィッド・グラブスら(当時の)シカゴ音響派と呼ばれた音楽家が多数参加して作られたアルバムだ。ちょうどシカゴ音響派がポップ化していく時代でもあり、当時の空気をとてもよく表している作品である。つまりレッド・クレイオラのアルバムであると同時に、当時のシカゴ音響派コミュニティのアルバムでもあった。本作は不思議と『ヘイゼル』と似ている。そのメロウな雰囲気、ポップネス、そこはかとない奇妙さ、絶妙な捻くれ方、コミュニティ感覚さなどによって。アルバムを聴き進むにつれハイ・ラマズ『ハワイ』(1996)やステファン・プリナ 『プッシュ・カムス・トゥー・ラブ』(1999・本作もオルークやジョンマケ、サム・プレコップなどのシカゴ音響派勢参加。まさに傑作ポップ・アルバム)などの傑作アルバムも脳裏をよぎった。
 むろん、本作もまた過去を振り返るような作品ではない。90年代から受け継がれてきたポップ/アヴァンの遺伝子が、いまこの2010年代に熟成された(フレッシュさを失うことなく!)音楽として私たちの耳に届いたのだ。それがとても感動的なのである。音楽はつづいている。途切れることはないということ。6曲め“ サブリミナル・ジャクソン”の弾むリズム・ギターのカッティングやビートのように。

 2010年代から1990年代へ。それは過去への退行ではない。「継続が生み出す必然」だ。対称的な毛玉とファミリーベイシックだが、その継続と必然性によって共通している(余談だが2バンドともイギリス経由のアメリカ音楽を日本人として鳴らすという点では共通しているようにも感じられた)。
 2015年以降のポップ。それは90年代を継続し、00年代を超えて(これらのアルバムとともに?)はじまるだろう。私たちはいま、リ・スタートの場所に立っているのだ。

デンシノオト