Home > Reviews > Album Reviews > Black Zone Myth Chant- Mane Thecel Phares
昨年11月にヒッソリと再来日を果たしていた流浪のフレンチ・サイケ・クラウト・ドローン・ドリフター、ハイウルフ(High Wolf)の公演に行かれた方はおられるだろうか。もはや遥か昔のようだが、初来日ツアーでのサポートにてさんざんタカられたトラウマから僕は彼ことマックスに顔を合わせていない……というのは半分ウソで、多忙にかまけて彼の今回のライヴ・セットをすべて見逃してしまったのを悔やんでいる。オフの日は普通にいっしょに遊んでいたのだが……。
そもそものハイウルフのコンセプトはアマゾン出身の謎のミュージシャンという設定で、当初は仮面なんか付けちゃって、出来もしないライヴ・パフォーマンスをデッチ上げて強引なツアーを敢行していた完全なベッドルーム・ミュージシャンであった彼は、しかしその圧倒的な量のツアーをこなすことによって次第にリアルなスキルを身につけ、てか仮面とか被ってたら演奏しづらいしってことでコンセプトが有耶無耶になりながらもミュージシャンとしてめざましい成長を遂げたと言っていい。アナプルナ・イリュージョン(Annapurna illusion)と、このブラック・ゾーン・ミス・チャント(Black Zone Myth Chant)は異なるコンセプトの下に活動する彼の変名プロジェクトである。これも本人的に当初は別の誰かがやってるってことにしてほしかったと思うのだけれども、もはや完全にバレバレってのも彼らしい。
BZMC名義としては2011年にリリースされた『ストレート・カセット(Straight Cassette)』以来、およそ4年ぶりとなる今回の『メーン・セセル・ファーレス(Mane Thecel Phares)』もまた彼が長年に渡ってワールドワイドなアンダーグラウンド・ミュージック・シーンにてドリフトを経た進化を充分に感じさせる内容である。胡散臭いエセ・エキゾ感は彼のその他のプロジェクトと同様だが、BZMCは彼のミュージシャンとしての出発点でもあるヒップホップ的ビートメイキングへの回帰でもある。時にインダストリアルな鉄槌感はあれど暴力的にはけっして展開せず、無意味に極彩色のアシッド・トリップに走ることを抑えてあくまで上品なサイケデリックを聴かせ、レトロなメロディによるリードが洗練されたトライバル・ビートを締めてくれる。同時代の変テコ電子音楽家たちに比しても見事にストイックな差別化を果たしていると言えるだろう。
ちなみにリリース元である〈エディションズ・グラヴァッツ(Editions Gravats)〉はマックスと同郷で親交を深めるロウ・ジャック(Low Jack)によるレーベルである。噂によると、ていうか飲みながら本人が言っていただけなんだけども現在この二人によるバンド編成による新たなプロジェクトが水面下で進行中とのことでこちらもじつに楽しみだ。そしてマックスのハイウルフの新譜、グローイング・ワイルド(Growing Wild)は間もなくマシュー・デイヴィッドの〈リーヴィング・レコーズ〉より発売される。
こっちもいっしょにレヴュー書こうかと思ってたけど、まぁ、いろいろお前には貸しもあるし、気分が向いたら書いてやんよバーカ、マックス、愛してるぜ。
倉本諒