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My Morning Jacket

Indie Rock

My Morning Jacket

The Waterfall

ATO

Tower HMV Amazon

木津毅   Jun 18,2015 UP

 ブッシュ・シュニアの弟が出るとか出ないとか、アメリカが来年のことでソワソワしはじめているなと思っていたら、もはやアメリカを代表するロック・バンドのひとつと言っていいだろうマイ・モーニング・ジャケットが新作のシングルで「デカい決断はきみ自身でしないと」と主張していて、ついにやってくるオバマ時代の終わりにちょっとこじつけそうになってしまった。もちろんバンドにそんなつもりはないだろう。が、ともかくその曲、“ビッグ・ディシジョンズ”のブリッジにはMMJの最良の部分が抽出されていて、その10小節を聴くためだけに何度もリピートしてしまう。「やれ! やるんだ! きみが本当にほんとに、本気ならな! 後悔したくなかったら、我慢なんてするな!」……高らかに鳴らされるギターとともに上空へとよく伸びるジム・ジェームスの歌。このバンドはつまるところいつだって、人生は素晴らしいし、きみには何だってできると聴き手を励ましつづけてきた。そう書くと能天気に聞こえるだろうか? だが、バンドはそのことを少しも恥じていないとばかりに、相変わらず力を振り絞って演奏している。

 7枚めとなる『ザ・ウォーターフォール』でMMJは、あれこれやり過ぎてやや散漫な印象を残した前々作『イーヴル・アージス』、実験的でダークだった前作『サーキタル』から引き返し、ボナルー・フェスティヴァルで堂々たるライヴ・バンドとして君臨する彼ららしい音とともに再始動している。オープニング、“ビリーヴ(ノーバディ・ノウズ)”でエレキ・ギターがドライヴすれば、ジムが「その日は来た! 僕の心は開かれている! マイ、オー、マイ! 信じろ、信じろ、信じろ、信じろおおおおおお!!」と吠える。それが生きていることだと証明せんとばかりにドラムは叩きつけられ、ジャムは渦を巻く。
 とはいえ、もはや彼らがただの豪快なジャム・バンドでないことはファンはよく知っていることだ。つづく“コンパウンド・フラクチャー”では洒脱なシンセ・ファンクが聴けるし、その次の“ライク・ア・リヴァー”はアシッド・フォークだ。『Z』以降顕著なエレクトロニカやヒップホップへのジェームスの興味はここでも隠し味になっている。ハード・ロック魂はやや抑えられ、そのぶんサイケ度はグッと上がる。ジャケットの赤い滝を見ればいい。サイケデリックであるということは、その幻の向こうに何か理想を見ることではないかと、そのことを探索することではないか……という気分になってくる。少なくとも、ピンク・フロイドとレッド・ツェッペリンがケンタッキー州の熊に襲われたような、このバンドのパワフルなロック・チューンを聴いているあいだは。

 先のソロにもよく表れていたが、ジム・ジェームスのシンガーとしての幅もグッと増した。オルタナ・カントリー的な小品“ゲット・ザ・ポイント”の穏やかな歌もいいが、白眉はねじれたギターのメロディが悩ましい“シン・ライン”。陶酔的なコーラスとともにファルセットのジムの声は少しかすれ、弱さをふとこぼしてみせる。「これは愛することと時間を無駄にすること、その間の薄いラインなんだ」……それはフライングVをかき鳴らした無敵状態の彼の口からは出ない愛の言葉だ。それでもである、「誰もきみを愛していないよ……僕以外は」なんていう包容力を、このひとは捨て去ることはない。ただただレイドバックしていく終曲“オンリー・メモリーズ・リメイン”では彼のソウル・シンガーとしての一面も見せながら、甘い歌でこう告げる。「僕たちのこの世の身体は朽ちていくけれど、僕たちが分け合う愛は生き続けるんだ」。僕は、それがたとえ幻覚だとしてもその歌に溶けていく欲求に抗えない。

 もう一度、例のブリッジを聴きたいがために“ビッグ・ディシジョンズ”を再生する。コーラスはこうだ――「きみは優しくて誠実だけど、恐怖に縛られているんだ」。僕には、それが遠いアメリカに住むひとたちだけに向けた歌だとは、どうしても思えないのである。

木津毅