ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Cornelius ——コーネリアスのライヴ・ドキュメンタリー映像「“Dream in Dream” Tour Document Episode 1」公開
  2. DJ Stingray 313 ──デトロイト・エレクトロの至宝、DJスティングレイが来日
  3. HIKASHU ——「実は最高傑作かも」と名高い、前衛時代のヒカシューの作品集『1978』が待望の初アナログ化
  4. 異次元の常識──パンク/ハードコアの思想とメッセージ
  5. YATE ──下北沢SPREADから徒歩5秒、系列の新バーがオープン
  6. Columns Boards of Canada ボーズ・オブ・カナダの帰還  | ──その軌跡、その影響、そして13年ぶりの新作『Inferno』をめぐって
  7. Columns Boards of Canada ボーズ・オブ・カナダの帰還 | ──その軌跡、その影響、そして13年ぶりの新作『Inferno』をめぐって(後編)
  8. interview with Mouse on Mars 僕たちはダブを、ジャンルではなく社会的なものとして捉えたい | ——リー・ペリーとの共作を発表したマウス・オン・マーズ、インタヴュー
  9. FESTIVAL FRUEZINHO 2026 ──気軽に行ける音楽フェスが今年も開催、マーク・リーボウ、〈Nyege Nyege〉のアーセナル・ミケベ、岡田拓郎が出演
  10. Brian Jackson - Now More Than Ever | ブライアン・ジャクソン
  11. Vladislav Delay Quintet - Vd5 | ヴラディスラフ・ディレイ
  12. Columns Jeff Parker ジェフ・パーカー・ETAカルテットの挑戦 | ──原雅明と蓮沼執太による対話
  13. Cornelius ——コーネリアスがアルバム『Refractions』のリリースと新曲“Aeons”の配信開始を発表
  14. UKインディ・ロック入門──ポスト・パンク、ギター・ポップ、スカとダブ編
  15. Greg Fox, iD-sus, YPY and Discovery Zone ──NYのドラマー、グレッグ・フォックスによる再来日公演が決定
  16. The Leaf Library - After the Rain, Strange Seeds | ザ・リーフ・ライブラリー
  17. Riria(STARFESTIVAL 2026) - @府民の森ひよし(ハピろー!の森 京都)
  18. 酒井隆史 - 暴力の哲学
  19. world's end girlfriend ──6月に『抵抗と祝福の夜 2026』が開催
  20. 『90年代ニューヨーク・ダンスフロア』——NYクラブ・カルチャーを駆け抜けた、時代の寵児「クラブ・キッズ」たちの物語が翻訳刊行

Home >  Reviews >  Album Reviews > Kiyoko- Sea of Trees

Kiyoko

AmbientElectronica

Kiyoko

Sea of Trees

Auxiliary

Tower HMV Amazon

高橋勇人   Jul 15,2015 UP

 UKの主要レーベルのディストリビューションを行っていた、STホールディングスの倒産が去年話題になったが、〈オグジリアリー〉はその影響をモロに受けたレーベルのひとつだ。現在は新しい流通会社を見つけたものの、しばらくレーベルはレコードをリリースすることができない状況におちいってしまった。
 同レーベルから発表された『シー・オブ・ツリーズ』はキヨコのデビュー作で、今年の5月に3年のときを経てレコードでリプレスされた(初回はデータとすぐに売り切れたフィジカルはCDのみだった)。〈オグジリアリー〉は、レーベル・オーナーのプロデューサー、ASCの活動を反映して実験的なドラムンベースやノイズ作品に主軸の置いているため、アンビエントやエレクトロニカのフィーリングを持つ今作は、他の作品と比べるとかなり異色な存在である。しかもアルバムのレコード化は今回がレーベルにとって初めてのことで、数ある作品のなかから再び世に出したかった1枚が今作、ということになる。

 キヨコのふたりはジャケットの陽光に輝く桜が咲き乱れる風景から程遠い、霧吹きで吹き付けられるような雨が降るマンチェスターの郊外でアルバムを作った。メガネの青年、ジョー・マクブリッジことシンクロはメロディアスなダブステップやドラムンベースの作品を多数発表していて、最近は同じ町に住むインディゴとのユニット、アコードでも素晴らしいベース・オリエンテッドなテクノをリリースしている。相方のジャック・レバーは、ベーリング・ストレイト名義でIDMやアンビエント作品を作り、マクブリッジと同じ町に暮らす彼の後輩にあたる。

 その名(日本名の「清子」という名前からとっている)が示すように、キヨコのふたりは「東洋的」な音を用いることをコンセプトに置いている。アルバム全体を通して、日本の電子音楽の歴史でよく耳にするような優しいメロディ・ラインや、民族楽器の音色などが登場することからも、そのねらいは功をそうしているようだ。けれども、そこで彼らが描く「東洋」を表す音がわれわれにとって新鮮に見えることがおもしろい。

 たとえば “オープン”や“ダルシマー”のメロディや生楽器と電子音の混ざり具合からは、彼らが影響を受けたであろう竹村延和や坂本龍一あたりを連想するのだが、実際に思い浮かんだ音楽と比較してみると、キヨコがやっていることがかなりシンプルだとわかる。緻密に組み込まれたリズム・パターンもコードが絶えず変化する展開も『シー・オブ・ツリーズ』にはない。キヨコが演じるのは、実際の日本で見つかるようで見つからない「日本」の音楽だ。

 そういうシンプルさを媒介して、彼らのなかの「東洋」と、ふたりの重要な影響源であり、今回もその要素が見え隠れしている〈ワープ〉や〈スカム〉のエレクトロニカが結合しているように感じる。ボーズ・オブ・カナダのようなサンプリング・コラージュや透明感溢れるシンセのレイヤーを想起するひとは少なくないはずだ。

 シンクロの本業ともいえる重低音が際立って現れるシーンが1曲めの“ファースト・サイト”や中盤の琴のような音が響く“ヴァレイ”にはある。東洋的な旋律の(サイノ・)グライムやダブステップは多くあるものの、同じようなベクトルを向きながらも踊れる要素を極力手放し、メロディと空間を用いてここまで聴き手を引き寄せる音は、今日のベース・ミュージックのシーンでも群を抜いている。

 品川駅の場内アナウンスがサンプリングされたその名も“シナガワ”という曲が3曲めにある。今作を制作していたとき、キヨコのふたりは品川駅どころか成田空港にさえ降り立ったことがなかった。冒頭から“シナガワ”の流れに耳を傾けていると、僕はどうしようもなくノスタルジックになる。訪れたことがない場所の音楽をテーマに作られた曲に対して、そのような感情を抱いてしまうのはつくづく不思議だなと思う。去年、シンクロがアコードとしてついに来日した。東京から名古屋に向かうときに初めて訪れた品川駅を、彼はいったいどんな気持ちで歩いたのだろう。


Kiyoko - Shinagawa

高橋勇人