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三田格   Aug 11,2015 UP

 3月だから……5ヵ月前のことか。『ele-king』本誌のUK特集で紹介した「ブロークン・ブリテン以降の30枚」にアメリカのものが1枚、混ざっていました! しまった! 誰も気がついてないのにカミング・アウト! 潔い!(さて、どれでしょう?)
 その時に落としてしまったのがヴィジョン・フォーチューンの4作め。ファッショナブルかつコンセプチュアルな映像にポスト・パンクの演奏が映える3人組(かな? よく知らない)。ポスト・パンクというのは、1977年にパンク・ロックがしっちゃかめっちゃかやっていた頃、その勢いには流されませんと、わざわざクールなリアクションを返したバンド群のことで、ガラージ・ロック回帰やゴシック・ロックなど、例によって音楽性による分類とはほど遠いものの、あからさまなアートへの入れ込みはパンク・ロックに内包されていたモダニズムを拡張させたものとして興味深い動向ではあった。しかも、アカデミズムへの逆照射がないところがアメリカのそれとはちがうというか、イギリスに特有の面白味といえ、その伝統(?)に則り、ヴィジョン・フォーチューンもアート志向全開でありながら、このところアカデミズムの参照が鼻に突き出したアメリカのアンダーグラウンドとは異なる雰囲気を醸し出しているところがいい。もしもマシュー・ハーバートがロック・ミュージックに転向したら……というか。

 『カントリー・ミュージック』は、そして、洗練度が高い。音に隙間が増えてイメージに柔軟性が出てきた。あくまでも即物的でアーティフィシアルな触感は手放さず、実験的な音楽が演出しがちな思わせぶりもない。リズムの楽しみがあるわけでもないし、だからといってだらだらもしていない。ロック・ミュージックが売りにしたがる文句のすべてから遠ざかっている。そのことによってわかるのは、ポスト・パンクの一部はブライアン・イーノが発端になっていたということだろう。意識の拡張や非日常からの帰還を促したブライアン・イーノ(詳しくは『アンビエント・ディフィニティヴ』序文を参照)。イーノを機に音楽はヴァーチュアル・リアリティの道具になったのである(『カントリー・ミュージック』というタイトルがそれこそ『アナザー・グリーン・ワールド』へのアンサーに思えてくる)。

 ブライアン・イーノにもっともコンプレックスを感じていたポスト・パンクといえば、それはワイアーだろう。バンドを離れた個人的な活動を見渡しても、それは明らかだし、多くの人が彼らの代表曲としてあげる「アウトドア・マイナー」がいまとなってはイーノの曲にしか聞こえない。この曲は歌詞がいいのか、フライング・ソーサー・アタックやルナ、ラッシュまでカヴァーしていた(僕は“アイ・アム・ザ・フライ”の方が好きだけどね)。
 何度となく再始動や再結成を繰り返してきたワイアーにとって、どこがターニング・ポイントになるのかもはやさっぱりわからないけれど、ここ最近のトピックといえば、70年代につくっていた未発表曲を始めてレコーディングしたという前作『チェインジ・ビカム・アス』(13)はちょっとした話題ではあった。簡単にいえば全盛期のワイアーが戻ってきたということになるらしく、なるほどパンクじみた演奏はそういった気分を掻き立てたかも しれない。とはいえ、コンセプチュアルな曲は様式性の方が際立ち、個人的にはそれほどノレるものではなかった。それこそどこにもテクノやハウスの痕跡はないにもかかわらず、明らかにそういった時代を通過してきたヴィジョン・フォーチューンに時代性で負けているとしか思えなかった。同じようにダンス・ミュージックを拒否していながらも肌で感じていることはちがうのだろう。音楽には多くの無意識が含まれている。これはミュージシャン本人にはどうしようもない。

 ワイアーの新作『ワイアー』が、しかし、とてもよかった。前作とは対照的に全編を通じて肩の力が抜けていて、自分たちはクールなつもりでも、思わず年寄りじみた叙情性が滲み出し、それがせめぎあうというよりも補完し合いながら優雅にポップ・アルバムとしてこじんまりとまとまっている。それこそ“アウトドア・マイナー”のようにイーノのダミーに徹したような安心感が最後まで崩れない。これは年寄りにしかわからない快楽係数かもしれないし、セイント・ヴィンセントがライヴに飛び入りし、“ドリル”で共演することがむしろ先端だと考える思考回路にも合致しているかもしれない(イギリスではセイント・ヴィンセントは非常に高く評価されている)。歌詞は抽象的で理解できたとは言いませんけれど、使われている単語の数々はやはりマシュー・ハーバートを思わせる。

三人の代表研究者たちは
グーグル天体図を使う
ベツレヘムの飼い葉おけ
それは高評価のアプリ (「ブロギング」国内盤対訳より)
彼らのうちの一人が光ファイバーのエビを産み出し
巨大な欠伸をかろうじて押し隠していた
一人の国粋主義者が死去しマンチェスターで埋葬された(“イン・マンチェスター”同)

 アン・マリー・ウォーターズや『Xファクター』(『The X Factor』)には困ったものだけど、カーラ・デルヴィーニュを筆頭にベネディクト・カンバーバッチ、エマ・ワトソン、キーラ・ナイトレイ、サム・スミス、ワン・ダイレクションと……オーヴァーグラウンドがこれだけ活気づいているんだから、それに対するカウンターが盛り上がってもまったく不思議はなかったわけですね。いや、UK特集では、そう書くべきだったなー(「ブロークン・ブリテン以降の30枚に混ざってしまったアメリカものはレイビットでした。いま、ウエイトレスといえばイギリスだと思うじゃないですか……)。

 関係ないけど、『ボラット』イギリス編。クリケットやケンブリッジがからかわれ、動物愛護のデモで「カザフスタンでは狩りは楽しいで~す」と言って活動家に激しく怒られたりしています。


三田格