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El Mahdy Jr.

Cut upDubGrimeWorld

El Mahdy Jr.

Ghost Tapes

Discrepant

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野田努   Aug 19,2015 UP
E王

 イスタンブールでスクリューされたラップとノイズが掻き回され、ベースがうねりを上げながら風景をゆがめる。政治的激動に晒された死せる街の強力なサウンドトラックとはこのことで、読者が初めてブリアルやシャックルトンを聴いたときのような凄まじいインパクトをお探しであるなら、ここにある。しかしエル・マーディ・ジュニア……アルジェリア生まれの、ガンツの盟友でもあるこやつは何者か。

 ロンドンのレーベルからリリースされた本作『ゴースト・テープス』は、USはポートランドの〈Boomarm Nation〉から発表された『いかれた場所の精神(The Spirit Of Fucked Up Places)』以来、2年ぶりのセカンド・アルバムとなる。その間マーディ・ジュニアは、オルター・エコーとガウルスのリミックスを収録した10インチ「ライ・ダブス」(ベーシック・チャンネルの“ネクスト”。日本のバンド、ゴートおよびそのファンは必聴)や12インチ「ガスバ・グライム」によって評判を呼んで、またガンツの12インチの共作者としても名を広めている。
 しかしながら、ガンツのくだんの「Spry Sinister」収録の“Rising”ような、アラビックな旋律があり、グライムめいたビートが打ち鳴らされるといったアレを想像してもらっても困る。リリース元の〈Discrepant〉とは「矛盾/食い違い/不具合」を意味する言葉だが、マーディ・ジュニアの音楽では、国境は溶解され、国籍は失われる。ターキッシュな要素(アラベスク、地元ラジオないしは地元ヒップホップ化したライ)がカットアプされてはいるものの、それらはサンプラーを通して異様なものへと姿を変えている。いったいこれは何なのか……トルコ、知られざる音楽の宝庫だ、などというワールドなオチとは別の、むしろトルコ文化がないがしろにしてきたサブカルチャーを引っぱり出すことが目的でもあると、実際そんなようなことを彼は語っている。
 結果、『ゴースト・テープス』はブリストルのヤング・エコーとほぼ同じ地平にいる。アナログ盤ではA面1曲、B面1曲という構成で、下手したら90年代末のゴッドスピード・ユー・ブラックエンペラー!をも彷彿させる。“デッド・フラッグ・ブルース”のダブ・ヴァージョン? いや、この音が渦巻く空間たるやダブとは言いたくなくなるような独自なものがある。

 「もしダブがアルジェリアや中近東で生まれていたら」というのが彼のもうひとつのコンセプトである。父親のレコード棚にはジャマイカのダブのコレクションがあったというが、彼のダブ解釈はリー・ペリーでもキング・タビーでもなければアラビックな旋律にエコー効かせるだけのものでもない。音が回転するかのようなダブ的感性の背後にはスーフィーの影響があるのでは、と中東好きの友人は言う。
 さらにもうひとつ、東西の境目でもあるイスタンブールのありのままの衝突を描くこと。そう、この音楽はいま起きている何かを懸命に伝えようとしているわけだが、冒頭に書いたように、まずはその圧倒的な迫力と斬新さという点において素晴らしい。つまり、この作品の国籍がどこであれ、『ゴースト・テープス』は1枚の突出したエレクトロニック・ミュージックなのだ。

野田努