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英国インディ・ロックの歴史を継承するようなアルバムだ。このアルティメイト・ペインティングの新作には、ルーツとしての60年代後半のビートルズなどがあり、英国インディの伝統としての米国からのヴェルヴェット・アンダーグラウンドの影響があり、ニック・ドレイクなどのブリティッシュ・フォークへの記憶があり、ペイル・ファウンテンズ、ベン・ワット、フェルトなどの80年代のネオアコースティックへのリスペクトがあり、そして90年代のベル・アンド・セバスチャンからゼロ/テン年代のインディ・ロックへと繋がる豊かな道=歴史がある。そして、その根底には60年代のハプニングアートから80年代のポストパンクに繋がる自由を希求するアートの精神がある。
もちろん、ポップミュージックの歴史を継続させることは大げさなことではない。それはカジュアルで、当然のことだ。リラクシンな本作を聴けば即座にわかるはず。
アルティメイト・ペインティングは、英国のインディ・バンド、ヴェロニカ・フォールズのジェームス・ホエアとメイジズのジャック・クーパーのユニットである。両バンドともにインディ・ロックの精神性と音楽性を継ぐ素晴らしいバンドだが(メイジズには“ゴー・ビトウィーンズ”という曲もある)、アルティメイト・ペインティングのアルバムは、彼らのルーツをより感じさせる仕上がりになっている。
とはいえ、人気バンドのメンバーによる趣味的なサイド・プロジェクトではない。昨年にリリースされたファースト・アルバムから1年後にリリースされていることからも彼らの意気込みを感じさせてくれる。
前作『アルティメイト・ペインティング』は、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド直系の音楽性(主にサード・アルバムからの)だったわけだが、ヴェルヴェッツのインディ・ロック全般への影響の大きさを考えると納得できる。
対して本作は、より英国的だ。ビートルズ「ホワイトアルバム」のデモ、もしくはポール・マッカートニーのファースト『マッカートニー』のような雰囲気。むろん直接的に何かに似ているというわけではない。英国ロック的な雰囲気(メロディや演奏など)が濃厚という意味である。
2本の乾いた音色のギターが絡み合うさまがグルーヴを生んでいるわけだが、ドコドコしたリンゴ・スター直系のドラムもまた本作のアンサンブルを決定付けている。そこに英国的な少し捻くれた美メロ/コーラスが乗る。わずかにアナログ・シンセが添えられる曲もあり、インディ・ロック的なスカスカなグルーヴ感が最高だ。いわばヴェルヴェッツとビートルズの融合か。
それがもっとも明確になるのがアルバム後半の3曲である。半音下降進行のクリシェなコード進行で展開し、ギターが泣きのフレーズを丁寧に演奏するという、まるで60年代後半のビートルズ楽曲的な7曲め“ペインティング・ザ・プライス”から、ヴェルヴェッツのようなミニマルなロックナンバー8曲め“ウォーケン・ノイジィズ”へ、そしてビートルズのゲットバック・セッション時の楽曲を思わせるラスト曲“アウト・イン・ザ・コールド”へとつなげていき、ふたつのバンドからの影響を表明していく。
特に“アウト・イン・ザ・コールド”は名曲だ。ブルージーなギターはジョージ・ハリスンを思わせるし、何よりメロディが良い。こんな名曲をラストに持ってくるという余裕。いや、この曲だけではない。アルバム全曲、メロディが素晴らしいのだ。
両者のバンドは、ティーンエイジ・ロックといった趣で(60年代前半のフィル・スペクターのプロデュース曲のような?)、正しくテン年代的な若さあふれるポスト・ポスト・パンク/インディ・ロックだったわけだが、アルティメイト・ペインティングは、ほんの少し大人になったような余裕がある。とはいえ成熟をしたわけではない。彼らは、まだまだ青い。それは、かりそめの成熟からはじめざるを得なかった80年代のネオ・アコースティックと同じ種類の青さに思える。それゆえのピュアなメロディとコーラスとも……。まさにアルティメイト・ペインティングな英国ロック。いつまでも愛聴し続けたい、愛すべき作品である。
デンシノオト