ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. マヒトゥ・ザ・ピーポー初監督作『i ai』が3/8より公開
  2. Columns 攻めの姿勢を見せるスクエアプッシャー ──4年ぶりの新作『Dostrotime』を聴いて | Squarepusher
  3. Jeff Mills × Jun Togawa ──ジェフ・ミルズと戸川純によるコラボ曲がリリース
  4. Lost Souls Of Saturn - Reality | ロスト・ソウルズ・オブ・サターン
  5. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  6. Squarepusher ──スクエアプッシャー4年ぶりの新作はストリーミングでは聴くことができない
  7. interview with Kode9 〈ハイパーダブ〉20周年 | 主宰者コード9が語る、レーベルのこれまでとこれから
  8. 川口好美 - 『不幸と共存 魂的文芸批評 対抗言論叢書4』
  9. Cowboy Sadness - Selected Jambient Works Vol. 1 | カウボーイ・サッドネス
  10. Bonobo presents OUTLIER ──ダウンテンポの達人、ボノボがキュレートするイベントにソフィア・コルテシス、真鍋大度、食品まつりが出演
  11. Kali Malone - All Life Long
  12. Columns ♯3:ピッチフォーク買収騒ぎについて
  13. interview with Squarepusher スクエアプッシャー、原点を語る
  14. Jeff Mills ——ジェフ・ミルズと戸川純が共演、コズミック・オペラ『THE TRIP』公演決定
  15. レコード蒐集家訪問記 第⼀回 ピンク・フロイド『夜明けの⼝笛吹き』を60枚以上持つ漢
  16. Helado Negro - PHASOR | エラード・ネグロ
  17. interview with Loraine James 路上と夢想を往復する、「穏やかな対決」という名のアルバム  | ロレイン・ジェイムス、インタヴュー
  18. R.I.P. Damo Suzuki 追悼:ダモ鈴木
  19. Columns 2月のジャズ Jazz in February 2024
  20. R.I.P. Wayne Kramer(1948 - 2024) 追悼:ウェイン・クレイマー

Home >  Reviews >  Album Reviews > Tamaryn- Cranekiss

Tamaryn

Indie RockPsychedelicShoegaze

Tamaryn

Cranekiss

Mexican Summer / Pヴァイン

Tower HMV Amazon

デンシノオト Sep 11,2015 UP

 サイケデリア。それは00年代末期から2010年代のインディロックを語る上で重要なタームのひとつだ。そして、そのサイケデリアを語るうえで欠くことのできないレーベルが、ニューヨークの〈メキシカン・サマー〉である。

 同レーベルは2008年に設立されている。翌2009年にはウォッシュド・アウトのデビューEP『ライフ・オブ・レジャー』を世に送り出し、10年代的なチルウェイヴ/サイケデリアの重要な源流を作り出す。また、ネオ・シューゲイザーの重要バンド、ノー・ジョイなども本レーベルからリリースを重ねている。
 さらに昨年、アンドラス・フォックス 『ヴィブラート・オン・サイレント』や、トーン・ホーク『レッツ・クライ・アンド・ドゥー・プッシュアップス・アット・ザ・セイム・タイム』など、ポストインターネットな作品もラインナップに加えており、最先端への目配せも忘れてはいない(ワンオートリクス・ポイント・ネヴァー主宰〈ソフトウェア〉は、〈メキシカン・サマー〉傘下)。そのうえロバート・レスター・フォルサムやリンダ・パーハクスのリイシューまで行っているのだから、まさに現代性と歴史性を兼ね備えた優良レーベルといえよう。
 今年のリリース作品を見渡してみても、ジェフレ・キャンツーリデスマ『ア・イヤー・ウィズ・13ムーンズ』、トラヴィス・ブレッツァー『ワキシング・ロマンティック』、ノー・ジョイ『モア・フェイスフル』など、現代のサイケリデリアを象徴するアルバムを多数リリースしている。このタマリンの新作も素晴らしい。

 タマリンは、タマリン・ブラウンの湿り気を帯びたヴォーカルを中心としつつ、ギターのレックス・ジョン・シェルヴァートンの蒼白い炎のようなギターワークの存在感が強いバンドであった。彼らは2010年にファースト・アルバム『ザ・ウェイヴス』、2012年にセカンド・アルバム『テンダー・ニュー・サインズ』などを〈メキシカン・サマー〉に残しているが、その幽玄な音楽性は2010年代的なシューゲイズ/サイケデリアそのものといってよい作風だ。

 しかし本作において彼らは大きな方向転換を図っている。アリエル・ピンクの盟友であり、ノー・ジョイの新作も手掛けたホルヘ・エルブレヒトがプロデュースを担当し、ウィークエンドのショーン・ダーカンをバンドに迎えたのである。結果、その音楽性はシンセポップ的かつインディR&B的な華やかさと、ダークな80年代ニューウェイヴな雰囲気が濃厚になってきたのだ。

 1曲め“クレーンキス”はマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの“スーン”を思わせもするが、2曲め“ハンズ・オール・オーヴァー・ミー”、3曲め“ラスト”から一転してシンセポップ色が強くなる。6曲め“ソフトコア”からは80年代的なニューウェイヴ・モードに突入し、続く7曲め“フェイド・アウェイ・スロウ”にはコクトー・ツインズやバウハウスのような4AD的なダークな雰囲気が充満している。
 とはいえ、このような変化は意外ではない。何故なら近年のシューゲイザーは、MBV的なものと、4AD的なダークなニューウェイヴの強い影響下にあるからだ。

 タマリンの新作もそのような潮流をよく表している。しかし、それがヨーロッパの音楽ではなく、アメリカの音楽という点が私には重要に思える。ヨーロッパ的な歴史が積層されていくゴシック感覚ではなく、資本主義の廃墟に生じるアメリカ的な歴史の止まった環境(音楽でいえばカート・コバーンの死以降、90年代以降)。それが彼らのサイケデリアに(無意識であっても)強く影響しているように思えてならない。
 歴史の停滞とサイケデリア。タマリンと〈メキシカン・サマー〉は、そんな現代のポップミュージックの光景を良質なインディロック/インディ・ミュージックとしてプレゼンテーションしている。資本主義の砂漠に咲く美しいサイケデリアの花のように。

デンシノオト