Home > Reviews > Album Reviews > PiL- What the World Needs Now
「PiLの新譜はスリーフォード・モッズみたい」
と言ったのは野田さんだが、わたしはこうお答えしたい。
「違います。PiLのがキュートです」
*****
前作以上にポップな仕上がりで、時にアンセミックだったり、ちょっぴりおセンチだったり、キャッチーなメロディーが頭の中をぐるぐる回って出て行かなくなる。“The One” はT-Rexみたいだし、‟Spice of Choice”のコーラスはもしかしてボウイを意識した? みたいな感じもあって、カラフルなジュークボックスのような仕上がりだ。そういえば前作の『This is PiL』が出た頃、BBCラジオでライドンがDJを務めたことがあって、番組でもT-Rexもかけて大好きとか言ってたしなー。パッツィー・クラインとか、ジム・リーブスとか、ペトゥラ・クラークとかガンガンかけてたし、50年代後半から60年代にかけてのポップスの影響ってのは、パンクやポストパンク世代のミュージシャンには大きくて、子供の頃に聴いた音楽だけにソングライティングの基盤になっているというのはよく言われる点だけれど、ライドンも、実はモリッシーに勝るとも劣らないぐらい古い歌謡曲が好きだったんだなーということをしみじみ感じるアルバムだ(と言っても、もちろんそれはPiLのレベルで、ということなんでいきなりポッピー&ハッピーなアルバムを期待されても違うが)
*****
昨年出たモリッシーのアルバムは「世界平和なんて知ったこっちゃないだろう」というタイトルだったが、ライドンは「世界にいま必要なもの」だ。
移民は欧州をめざして前代未聞の数で大移動しているし、キャメロン首相はシリアでドローン飛ばして英国人ジハーディストを殺してるし、いったいこの怒涛の如き世界に、いま必要なものって何なんですか、先生。と、思いながらその言葉に耳を傾けてみる。
便所がまたぶっ壊れた
修理したばっかだぞ
また配管工を呼ばなきゃ
そしてまた、そしてまた
そしてまた、そしてまた
そしてまた、そしてまた‟Double Trouble”
お前の言うことはボロックス
それはすべてボロックス
お前のファッキン・ボロックス
ナンセンス お前のボロックス
ボロックスにうんこを二つ
人間なんてボロックス
世界にいま必要なのは
も一つファック・オフ“Shoom”
先生はどうやらふざけておられるようだ。(ボロックス連発の歌を聞いた9歳の息子とその友人が床にひっくり返って笑っている)
*****
『UNCUT』という中年向けロック雑誌に出ていたインタヴューでライドンはこんなことを言っていた。
「PiLは端的に言えば音楽じゃない。継続的な創造活動を入れるポットだ。そして俺が探究しているのは自分の内面。自己解剖っていうか」
ロックとかパンクとかいうジャンルが様式重視型の芸術の一形態になるにつれ、それが+αの力を持っていた時代にパイオニアとして活躍したおっさんたちの近況を見ていると、年を取るとすぐ「劣化した」と言われて誰もがアンチエイジングにしゃかりきになるこの時代、ロックであるということは、即ち反骨するということは、「老いを晒す」ことではないか。それ以外にロックなんて、もうないんじゃないか。
と思うことがあるんだけれども、ライドンが「自分を解剖する行為」と言っている音楽はまさにそのことのようだ。
ジャケットに使われているライドン画伯の絵で、「What the World Needs Nowxxx(キスキスキス、とxが3つも入っているというキュートさだぞ)」の文字の真下に立っている彼の自画像が、右手に地球を下げ、左手にPiLのシンボルマークを掲げていることから察して、世界にいま必要なものはPiLだ。ということなのだろう。
で、現時点でのPiLが世界にオファーしているのがユーモアとかわいらしさだとすれば、それは例えばジェレミー・コービンの薔薇とそれほど離れたものでもないかもしれない。
だってキュートな画伯はこんなことも仰っておられるのだからxxx
グローバル・ヴィレッジじゃなくて
一つの地球
ちっぽけで哀れな無数のヴィレッジが
21世紀のサヴァイヴァル法を学んでるんじゃなくて
第三次世界大戦は目前
どうやら人間はヒューマニティーが大嫌いみたいだから
おお我らに憐れみを
俺らは次の世紀に達することができるのか?
“Corporate”
ブレイディみかこ