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CFCF

AmbientElectronicSynth-pop

CFCF

Radiance and Submission

Driftless Recordings / PLANCHA

Tower HMV Amazon

デンシノオト   Dec 16,2015 UP

 なんと端正なアンビエント/エレクトロニック・ミュージックだろうか。まるで工芸品のように磨き上げられた音たち。とはいえ単に美しいだけではない。どこか深い影の存在も感じる。この「影」の正体はなんだろう? と思いながら、1937年に岩手県で生まれ、2001年に亡くなった洋画家・松田松雄の作品を用いたアートワークに目を向けると、このカナダ人の電子音楽家の作品と日本が時空を超えて不意に繋がるような感覚を覚えてしまった。そう、本作はカナダ・モントリオールを拠点に活動するマイケル・シルヴァーによるプロジェクト、CFCFの2015年作品である。リリースは〈ドリフトレス・レコーディング〉。

 CFCFは00年代末期より『コンティネント』(2009)や『アウトサイド』(2013)など、チル・ウェイヴ以降ともいえるエレクトロニック・ミュージックをリリースしてきたわけだが、本年2015年にリリースした『ラディアンス・アンド・サブミッション』と『ジ・カラーズ・オブ・ライフ』(リリースは〈1080p〉)においては、精密で繊細でロマンティックなアンビエント/エレクトロニック・ミュージックを展開している。近年の潮流ともいえるニューエイジ的ともいえるが、そのようなアンビエント感は彼の作風に内包されていたものだから、いわゆる売れ線狙いの不自然さは微塵もない(そもそも『ジ・カラーズ・オブ・ライフ』は2011年に録音されていたものだという)。いわば「箱庭的」な音楽への希求とでもいおうか。ちなみに両作とも日本のみでCD化される。まさに快挙。

 1曲め“イン・プレイズ・オブ・シャドウズ”は本作を象徴するようなトラックである。朝霧のような電子音と柔らかなギターに、フィールド・レコーディングされた雑踏の声などが繊細にレイヤーされていく。つづく2曲め“スカルプチャー・オブ・サンド”ではダークなサウンドとクラシカルな旋律が反復し、本作特有の「影」を際立たせていく。4曲め“テザード・イン・ダーク”では森の中を彷徨うかのようなアコースティックギターの音色/旋律と、透明な音の群れのような電子ノイズの運動が耳をくすぐる。深い鼓動のようなキックや木の粒のようなパーカッシヴなサウンドもたまらない。5曲め(アナログ盤ではB面1曲め)“ザ・ルーインド・マップ”と、8曲め(アナログ盤ではB面3曲め)“ラ・スフリエール”は、ヴォーカル・トラックである。澄んだ歌声とギターと絹のような電子音が空気のように交錯する美しい曲。ラスト曲“トゥー・ミラーズ”では、波打ち際のように反復するギターと、星空のような電子音が耳を洗ってくれる。アルバム全編、ギター、ピアノ、マリンバ、電子音などが細やかに繊細に配置され、まるで手入れの行き届いた庭園のミニチュアールのようなサウンドに仕上がっている。
 たとえるならば、坂本龍一の名作『音楽図鑑』を受け継ぐかのような80年代ポストモダン的な音楽とでもいうべきか。もしくはアンビエント以降の80年代のブライアン・イーノ諸作品のようなアート/ポップ・ミュージックの領域を越境するような感覚とでもいうべきか(3曲め“ア・ヴァリエーションズ・ランゲージ (フロム・ザ・セイム・ヒル)”は、イーノ『ミュージック・フォー・フィルムズ』収録曲のカバーだ)。いや、むしろエレクトロニクス化したザ・ドゥルッティ・コラムとでも形容した方がしっくりくるだろうか。というほどに、本作にはある種の「ロマンティックさ」があるのだ。

 マイケル・シルヴァーの世代にとって80年代とは、「あらかじめ失われた時代へのロマン」ではないかとも思う。と同時に私などは、その「80年代」に、どこか「日本(の戦後)の影」がちらつくのである(ここからOPNからジム・オルーク論、セゾンカルチャー論へと強引に展開も可能だろう)。そう思うと『ラディアンス・アンド・サブミッション』という名前のアルバムにアートワークに日本の洋画家・松田松雄の作品を用いている点は(たまたま見つけというが)、やはりとても重要なことに思えてくる。石のような庭園で、石のように凍結した人物たち。戦後。80年代。日本。ポストモダン。

 もちろん、そんな妄想的な議論に性急に結びつける必要はまったくない。なにより本作は美しいシンセサイザー・ミュージック/アンビエントミュージックなのである。未聴の方は『ジ・カラーズ・オブ・ライフ』とともに、とにかく聴いてほしい。洗練されたメロディとサウンドが耳と心に、まるで水のように浸透するはずだ。

デンシノオト