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2015年も終わるころ、JBのトーキング・ヘッズ的な変奏とでも形容したいNWファンクな新曲“ドント・ムーヴ”のスタジオ・ライヴ映像が、突如としてインターネット上で公開されたときは興奮したものだ。高橋幸宏、小山田圭吾、砂原良徳、テイ・トウワ、ゴンドウトモヒコ、レオ今井ら、最高・最強の音楽たちによる「バンドの音」が、キレキレなサウンドで鳴らさせていたのだから。
そう、単なる有名アーティスト同士の企画ものドリーム・バンドではないのである。ソリッドなのである。カミソリのように研ぎ澄まされていたのである。しかし単に若さだけ、もしくは勢いだけの稚拙さは微塵もない。十分なキャリアを持っている音楽家たちが成熟した演奏=技を聴かせてくれるのだ。オトナたちのカクトウギ・セッション? まさに新しいバンドの誕生を目撃したような驚きがあった。
そして、2016年早々にリリースされたファースト・アルバム『メタ』は、期待通りの作品であった。6人の音楽家たちの個性がエゴから遠く離れた地点で、YMOという巨大な歴史に反発するわけでもなく、いや、むしろ安易な反発などかっこ悪いといった風情で、成熟したポップ・ミュージックを聴かせてくれたのだ。そのうえで「この曲のあの音はあのYMOの音かな?」など思いながら聴きこむと、さらに楽しいのである。なにしろ“ラヴ・ユー・トキヲ”の「トキヲ!」のヴォイスは、砂原が半日かけて録音し、なんと坂本教授に許可(!)をもらったというのだから。「遊ぶからには徹底する」。そんなこだわりがあるからこそ、聴き手もまたジョイフルな気分になるのだろう。本作を何度も繰り返し聴きながら、そのたびに『スターウォーズ フォースの覚醒』を観たときような感慨(興奮?)を持ってしまうのである。
それにしても、濃いアルバムだ。むろん濃厚であってもしつこくはない。どれもポップで軽やかである。そのうえ徹底的に研ぎ澄まされている。大人の余裕すらある。6人のメンバーが2曲ずつ作曲を担当しているが、クレジットなしで聴いていると誰がどの曲がわからない点もまた楽しい。個性はあってもエゴは希薄とでもいうべきか。たとえば“ラヴ・ユー・トキヲ”のグっとくるサビメロはユキヒロさんによるものかと思いきや、そうではないのだ。
だからこそ“ピュア・ジャム”のような“アルボーレ”や、砂原による(まるで『サービス』収録曲の2016年版のような?)エレガントなエレクトロニック・トラック“ホワイトアウト”などの魅力が、さらに際立ってくるといえよう。そう、YMOのエッセンスを消化した2016年型のサウンドは、「彼ら」だからこそ作り上げることができたのではないか、と。
そして、テイのソロアルバム収録曲でもあった“レディオ”や、小山田圭吾=コーネリアスが手掛けた「攻殻機動隊」主題歌でもある“スプリット・スピリット”のメタヴァージョンもバンドの「定番曲」のようにきれいに馴染んでいるし、アルバムのトリを飾る高橋幸宏曲“スレッド”は彼特有のロマンティックなメロディが胸を打つ名曲であった(作詞がレオ今井であることの驚き)。とにかく、この曲、ユキヒロ・ファンなら涙ものだろう。
個人的には3曲め“メイジーズ・アヴェニュー”や、7曲め“ディザスター・ベイビー”など、まるでニュー・オーダーのようなUKロックな曲にも注目したい。このメンバーがこのようにストレートなロックを演奏する機会などかなり稀な事態で、シンプルな曲調ゆえその熟成した演奏の味わいが横溢しているのだ。特に小山田圭吾のアメイジングなエレクトリック・ギターに耳が奪われてしまう。7曲めの間奏で鳴らされるアート・リンゼイばりのノイジーなギター!!
このメタファイヴは「電子音楽とポップの融合と実験というYMO的なるもの」の継承のみならず、実力とセンスのある音楽家たちによる「サディスティック・ミカ・バンドの系譜」にあるバンドとはいえないか。そう考えるとメタファイヴにおいてヴォーカリストとしてのレオ今井の色気とエッジも分かってくる。彼の存在がバンドに新しい花=色気を添えているように思えるのだ。いや、彼だけではない。このバンドには不思議な色気がある。成熟した大人だからこそ醸し出せる演奏=遊びの華やかさ? 先日のライヴでは若い女性客が多かったというのも頷ける話だ。
となれば、最後はスタイリト高橋幸宏の洗練されたバンドコーディネイトにあらためて唸らされてしまう。そう、このバンドの尽きない魅力は「この6人でバンドをする」と決めたときに決まっていたのかもしれないと……!
デンシノオト