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このアルバムでデビューを果たすドット・プロダクトは、ウェッジ名義で活動していたアダム・ウィンチェスターと、ライデンやカミカゼ・スペース・エクスプローラーとして知られるクリストファー・ジャーマンのふたりからなるプロジェクトだ。本作の制作にあたって彼らが音源として使用しているのは、フィールド・レコーディングにより採集されたライブラリーや、生活環境の中に漂っている電磁波を音声化したサウンドだ。そうした音素材にサウンドプロセッシングを施してトラックにまとめ上げたのが本作に収録された9曲である。
「テクスチャーを強く意識してダンス・ミュージックを制作してきたふたりが電子楽器に飽き足らず新鮮な音源を求めて自然界へ、ひいては、知覚領域を超えた電磁波へ目を向けた」
そう書くとあまりにもおおげさに思えるのは、フィールド・レコーディングや電磁波を音声化するという行為そのものは決して目新しいものではないからだ。2013年のフリードミューン・ゼロでは電磁波によって引き起こされるドーンコーラスに合わせて演奏がおこなわれているし、電子機器から発せられる電磁波を音声化するエレクトロスラッシュという機材が安価で発売されてもいる。
本作が面白いのは、ふたりがそうした行為を目的にするのではなく、制作手段のひとつとして取り入れて、楽器の表現力に匹敵するレベルまで高めている点だ。例えば1曲目の“バルーンズ”では、採集してきた音素材がキックやベースとして使えるように加工されているし、中盤に配置される物悲しげなムードを醸すサウンドは、マックス・ローダーバウアーのフィンガーボード演奏を聞いているかのようだ。4曲目の“アトモスフィア・プロセッサー”というタイトルは非常に言い得ていて、散り散りのノイズが打ち寄せるなか、叙情的で壮大な雰囲気が醸し出されている。単なる自然音に過ぎないフィールド・レコーディングや電磁波に叙情性がもたらされているのは、ドット・プロダクトの手腕と音楽性の表れだといっていい。ただ音を持ってきて張り付けただけでは、このような仕上がりにはならないだろう。
一方で、複雑な倍音構造を持つ自然界の音を加工したことによるテクスチャーの豊かさも際立っている。6曲目の“アニメーション”での圧搾ノイズや統制されたフィードバック音、そして、最後の“エクストリーミス”における激しいハムノイズやハウリング音など、変化に富んだ聴き応えのあるサウンドが散りばめられている。
しかし本作の聴きどころはやはり、ふたりが異質な素材を単に羅列するのではなく、一見、無機質に思えるテクスチャーから発露される一種のムードを捉えて、冷ややかな雰囲気の漂う楽曲を生み出している点にある。『ぼくのエリ 200歳の少女』の上映時にドット・プロダクトのサウンドを流すという企画が依頼されるのも、映画を演出するに足る雰囲気をふたりが生み出せると期待されているからだろう。彼らがテクノからドラム&ベースまで様々なダンス・ミュージックを制作してきたことを踏まえると、個人的には、今回のコンセプトに則ったうえでフロア志向のトラックを制作すれば面白い結果になるのでは? という気がしている。
Yusaku Shigeyasu