ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. DERRICK MAY×KEN ISHII ——デリック・メイが恵比寿リキッドルームに登場
  2. DJが描く日本のヒップホップ、DJ YAS著『ジャパニーズ・ヒップホップ第二世代——あるDJの証言』刊行のお知らせ
  3. Bullion - Nearly | ブリオン
  4. WWW Xで悪魔の沼ついに沼納め
  5. lilbesh ramko - Ramko Helvetica | リルベッシュ・ラムコ
  6. Moodymann ──ムーディーマンの来日公演が決定、今年は東京と京都をツアー
  7. Smith & Mighty ——ブリストル・サウンドのオリジネイター、スミス&マイティが久しぶりにアナログ盤をリリース
  8. YOSHIROTTEN ──エレクトロニック・ミュージックと共に宇宙と交信しよう。ヨシロットンの展覧会『彼方との交信 — BEYOND EARTH』が今週末より開催
  9. interview with Wool & The Pants 東京の底から  | 德茂悠(ウール&ザ・パンツ)、インタヴュー
  10. Columns 10月のジャズ Jazz in October 2026
  11. ジャパニーズ・ヒップホップ第二世代──あるDJの証言
  12. DJ Clent ──ゲットー・ハウス~フットワークの伝説、DJクレントが急遽来日
  13. Eden Aurelius - Entre Nous / emer ft. Ugnė Uma - You and Me | エデン・オーレリウス、エメル、ウグネ・ウマ
  14. AMBIENT KYOTO ──2027年春、レイ・ハラカミの展示が決定
  15. Helen - Linda's Head | ヘレン
  16. Arab Strap - Half-Told Tales | アラブ・ストラップ
  17. Columns Introduction to P-VINE CLASSICS 50
  18. 細野晴臣 - Yours Sincerely | Haruomi Hosono
  19. ゲーセン波乱万丈の100年史
  20. interview with Actress UKテクノ界の奇才が語るみずからの哲学 | ──アクトレス、インタヴュー

Home >  Reviews >  Album Reviews > Frankie Cosmos- New Thing

Frankie Cosmos

Guitar PopIndie Pop

Frankie Cosmos

New Thing

Bayonet / Pヴァイン

Tower HMV Amazon

橋元優歩   Apr 14,2016 UP

 ああ、短い。1分、2分たらずのポップ・ソングが15曲。気がつけばすべて終ってしまっていて、しかしその終ってしまった時間のなつかしいこと……。

 いわゆる2ミニット・ポップというのとはニュアンスがちがう。楽天的でキャッチー、かつ鉄壁のポップ・フォーマットを持っている、というのではなくて、それはさながらため息のような、笑い声のような、問いかけであり独白であるような、とりとめのない一筆書きの感情の束というのに近い。「曲」という単位がふさわしいのかどうかもわからない。メモ紙が風に飛ばされるようにわっとこちらにやってきて、その白い残像を網膜にやきつけてどこかへ消えていく。なんと軽やかで、しかしなんという質量をもっていることか。

 ああ、いまのあれは何だったのだろう……心地よい渇きとともにあらためてわれわれはその名を記憶する。フランキー・コスモス。ニューヨークのシンガーソングライター、グレタ・クラインのプロジェクト。齢20歳ちょっと。2014年の『ゼントロピー(Zentropy)』をご存知のかたも少なくないはずだ。しかし彼女を聴くのに順序やバイオは関係ない。どこを切ってもそのままのフランキー・コスモスが姿をのぞかせるし、彼女に触れることがそのまま彼女を聴くことになるということを私たちはすぐ知ることになる。

 ローファイでシンプル。ギター主体のバンド・アンサンブルが基本だが、楽曲をつくるのは彼女であり、あくまでクラインのプロジェクトとして成り立っている。素朴ではあるが、それを天然と呼ぶにはあまりに聡明かつ理性的、そしてヘタウマというにはあざとさがない。ビート・ハプニングを思わせる。キャルヴィン・ジョンソンのあり余るタレント性の中から、ちょっとした露悪性というかクセの強さを差し引くイメージだ。あるいはそのキャルヴィンによる〈Kレコーズ〉のタイガー・トラップの自然体を思い出す。旋律のひとつひとつが生き生きとして、風のように力が抜けている。かつ構成的でも様式的でもない。音楽でなくてもよかったのではないかという普遍性と、音楽でなくてはならなかった特別なよろこびに満ちている。

 歌われていることは、基本的には一人称の、クライン自身の生活に根差すことがらのようだ。物語性や詩的な飛躍が強いわけではないが、体験を生々しくつづるというのでもない。まだとても若いのに、どことなくものを儚み、倦んでいるような調子があるのがとても印象的だ。いまは離別したとおぼしき思い人の町をひとりで歩き、いろんなものに相手の気配を感じとっていくというかわいらしい心情の歌われる"O・ドレッデッド・C・タウン"も、最終的に耳に残るのは「I don't know or care to know」という諦めのニュアンスばかり。バンドには彼氏さんだというポーチズのアーロン・メインも参加し、彼のポーチズにもクラインが参加していて、昨年はふたりで制作したEP『フィット・ミー・イン』もリリース、ポーチズに寄った柔らかいシンセ・ポップが収められているばかりか、ジャケットのアートワークにもふたりを思わせる男女のドローイングを用いていて、とてもよい関係の中に音楽が紡ぎ出されていることはわかるが、恋にはじけ夢中になるというテンションはまるでない。

 若いことは華やいだことでなくていい──クラインのみずみずしさはティピカルな若さのモチーフを解体してくれる。そう気づいたとき、彼女の感じているはずの風や光が、生々しい量感を帯びて肌に触れてくる。それは筆者にとっても「ニュー・シング」とよぶべき瞬間だった。

橋元優歩