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木津毅   Jun 17,2016 UP

 わたしたちはどこから来たのだろう? アメリカの音楽家たちが繰り返し実践してきたその問いが、いまこそ切実な問題として立ちあがっている。オバマの8年間でアメリカはもっとも二分したとも言われているが、なにもオバマの政治のせいだけではないだろう。オーランドーで発生した最悪の銃乱射事件がすぐに政治的な議論にスライドしているように、非常事態はいま目の前にあって、だがそれすらも分断された立場からのステートメントとして利用される。わたしたちはどこから来たのだろう……理念はどこにあるのだろう。ケンドリック・ラマーとビヨンセはアフリカを向き、ボブ・ディランはフランク・シナトラの時代の「スタンダード」をさらに探究する。そしてインディ・ロックのコミュニティはここで、60年代の西海岸との繋がりを思い出そうとする。

 2009年に発表されたエイズ・チャリティを目的とする『ダーク・ワズ・ザ・ナイト』は当時のUSインディ・ロック・シーンの充実を示したランドマーク的なコンピレーションだったが、本作はその続編であり、そしてザ・グレイトフル・デッドのトリビュート・アルバムである。キュレーターは引き続きザ・ナショナルのサウンド面を担当するアーロンとブライスのデスナー兄弟だ。完成までにおよそ4年の時間がかけられたという本作は、全59曲、CDにして5枚組、全部通して聴けば6時間近くかかるという正真正銘のエピックだ。ザ・ウォー・オン・ドラッグスからはじまるように基本的には現在のインディ・ロック・シーンを中心としており、ザ・フレーミング・リップスやボニー“プリンス”ビリー、ウィルコ、ビル・キャラハンといったベテランからジム・ジェイムス(マイ・モーニング・ジャケット)、ジャスティン・ヴァーノン(ボン・イヴェール)、グリズリー・ベアといった中堅どころ、コートニー・バーネットやパフューム・ジーニアス、リアル・エステイト、アンノウン・モータル・オーケストラなどなどイキのいい新世代が参加している。だがそれだけでなく、現在のトレンドのひとつでもあるクラシック勢としてはyミュージックはアノーニとやっているし、タル・ナショナルのようにアフロ・ポップもあればラテンもジャズもパンクもあり、なんとティム・ヘッカーまでいる。いずれにせよ書き切れないのでラインアップはHPを参照していただきたいが、いまもUS(インディ・ロック・)シーンに音楽的な充実があるのだと証明するような気迫が感じられる。

 HPには、これは「隠された宝」なのだと説明されている。隠された……僕は『ダーク・ワズ・ザ・ナイト』のアメリカーナ解釈のほかにもボブ・ディランのトリビュート・アルバムにしてトッド・ヘインズの映画『アイム・ノット・ゼア』のサウンドトラックでもあるコンピレーションを連想したが、しかしディランのような絶対的な存在と比べるとたしかにデッドはどこかで忘れられかけた存在だったのかもしれない。歴史的にカウンター・カルチャーはたしかに瓦解したし、そんななかでも熱心な信奉者が多く存在するがゆえにこそ、一時はアンクールなものとしてみなされることもあったろう。その意味では本作では批評性もありつつ、同時にデッドに対する――まず何よりもその音楽に対しての――素朴な愛と尊敬がある。僕などは聴いていて単純に「こんなに名曲揃いだったんだな」とあらためて感心したし、基調はレイドバックしたロック・サウンドなのでいまの気分ともフィットする。ブルーグラス・シンガーの大物、ブルース・ホーンビィとジャスティン・ヴァーノンのデュエットはほとんどボン・イヴェールを聴いている感覚に近いし、ティム・ヘッカーはほとんどオリジナル曲のようで笑えてくる。59曲というボリュームも逆に言えばどこから聴いてもいいし、自分でプレイリストとして編集できるということでもあり、まさに聴き手に能動的な発見を促すものとなっている。

 だから大前提として音楽的な批評と挑戦が本コンピレーションの目的だが、それでもなぜザ・グレイトフル・デッドなのかは一考の余地があるだろう。サイケデリック・カルチャーのアイコンとして手放しで礼賛しているようではないし、なにせ60アーティストも参加しているのだからそれぞれで思想や政治的立場は異なるはずだ。だが、それでも……聴いているとヒッピー・カルチャーの匂い、ないしはLSDの幻覚をどこかで錯覚するような気分になってくる。たとえばピッチフォークは、ミュージック・コンクレートの要素やカウンター・カルチャーの再考という面から21世紀初頭のフリー・フォークとの連続性を指摘している。社会からの逸脱、コミューン、ドラッグとジャム・セッション、スピリチュアリズム……その60年代の夢が、本当に過去のものになったのかを本作は問いかける。参加したアーティスト自身に、そして聴き手に。そして『ダーク・ワズ・ザ・ナイト』がそうであったように、このコンピレーション自体がいまのアメリカにおけるひとつの緩やかなコミュニティとして存在しているのだ。立場も出自も異なる者たちが、それでも集える「夢」はまだ存在するのか、と。ゆえに非常にアメリカ的なイシューが内包されたものではあるが、日本の片隅で聴いていてもその「夢」を想像させる力が宿っている。

 デッドのメンバーであるボブ・ウィアーはウィルコとザ・ナショナルといった本作を代表する人気バンドとライヴ・テイクで共演しており、そこでは頬が思わず緩んでしまいそうな大らかな演奏が繰り広げられる。過酷な時代からただ逃避するためのサイケデリアではなく、いま一度同じ場所に集まるためのロック・ミュージック、その遺産がそこでは鳴らされている……そして愛が。現代のインディ・ロックの理想主義はなにもバーニー・サンダースの集会にのみあるわけではない……音楽のなかにこそあるのだと、この豊かな6時間からは伝わってくる。

木津毅