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Acid Arab

HouseMusique de France

Acid Arab

Musique De France

Crammed Discs/Pヴァイン

Tower Amazon

小林拓音   Nov 01,2016 UP

 「フランスの音楽」と聞いて、あなたはどんな音楽を思い浮かべるだろうか。エディット・ピアフ? イヴ・モンタン? それともダフト・パンクやエールだろうか。
 僕が真っ先に思い浮かべるのはロラン・ガルニエなのだけれど、デトロイト・テクノに影響を受けた彼の音楽に、とりたてて「フランスらしさ」のようなものは感じられない。それはダフト・パンクやエールに関しても同様である。彼らの音楽を、わざわざ「フランスの音楽」として聴いているリスナーはそんなに多くないだろう。フランス産のエレクトロニック・ミュージックはたいていの場合、良いか悪いかは別にして、英米のエレクトロニック・ミュージックの延長線上にあるものとして受容されているはずだ。逆に、いわゆる「フランスらしさ」の感じられる音楽とは、大多数の人びとにとってはいまだにシャンソンなのであり、あるいはフランス語の響きを堪能することができるフレンチ・ポップスなのではないだろうか。
 しかし、当たり前の話だが、フランスにはさまざまな人びとが暮らしている。当然音楽もその多様性を反映しており、かの地にはラップ・フランセもあれば、アフリカ音楽の豊かな土壌もある。そのような多民族国家であるかの地から、ザップ・ママやベベウ・ジルベルトのリリースで知られるベルギーの〈Crammed Discs〉を経由して、『フランスの音楽』と題されたアルバムが届けられた。アーティストの名はアシッド・アラブ。さあ、これは一体どういうことだろう?

 ギド・ミニスキーとエルヴェ・カルヴァーリョのふたりから成るアシッド・アラブ(現在はもっとメンバーが増えているという話もある)は、フランスのクラブ・ミュージックの文脈に唐突に出現してきたユニットである。彼らは、2013年に〈Versatile〉からリリースされたコンピレイション『Collections』に参加したことでじわじわと注目を集め、昨年単独名義としては初となるシングル「Djazirat El Maghreb」をリリース。それに続いて発表されたのが、彼らにとって最初のアルバムとなる本作『Musique De France』である。

 アシッド・アラブの音楽は、簡単に言ってしまえばディスコやハウスにアフリカや中東の伝統的な音楽を合流させるというもので、そういう意味でこのアルバムは昨秋リリースされたサンジェルマンのアルバムと共振しているとも言える。
 まずは、1曲めの“Buzq Blues”にヤられる。イランの弦楽器であるタールの紡ぐ旋律が、TB-303のアシッド音と入れ替わる瞬間は鳥肌モノで、その後両者が重なり合っていく様も見事としか言いようがない。この手法は9曲めの“Sayarat 303”でも採用されており、このような巧みな融合の演出がかれらの基本的なスタイルと言っていいだろう。

 “Le Disco”におけるライザン・サイード(オマール・スレイマンのキーボディスト)の大仰なプレイはどこかダフト・パンクを想起させもするが、おそらくはその音階のためだろう、決して下品な印象は与えない。他の客演陣も興味深く、いちばんのビッグネームは“Houria”に参加しているラシッド・タハだが、シングルカットされた“La Hafla”におけるソフィアン・サイディのラップや、“Stil”におけるセム・イルディズ(オリエント・エクスプレッションズ)のヴォーカルなど、みな本作のアラビックなムードの形成に貢献するパフォーマンスを披露している。
 エレクトロニックな要素を極力抑えたトラディショナルな最終曲“Tamuzica”を除いて、全体的にややリズムが単調なのがいくらか残念ではあるものの、ハウスやダウンテンポとして聴く分には申し分のないクオリティである。

 何よりも、アラビックな旋律や音色が大々的に導入されているこのアルバムを「フランスの音楽」として呈示してみせる彼らの勇気に、僕たちは最大限の敬意を払うべきだろう。アシッド・アラブは、多くの人びとが「フランス」としては認識していないだろうアラブ文化が、かの地でいかに卑近なものであるかということを世界に開示しようとする。このアルバムには、単に「クラブ・ミュージックと中東音楽をミックスしました」という以上の、ポリティカルな冒険がある。度重なるテロを経て、移民排斥を訴える国民戦線が勢力を伸ばし、政権入りの可能性まで取り沙汰されているなか、彼らはあえて「フランス」という名を掲げながら、このようなハイブリッド・ミュージックを世に問うているのである。つまり本作が鳴らしているのは、いま、もっとも生々しい「フランスの音楽」なのだ。

小林拓音