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デンシノオト   Dec 22,2016 UP

 これは相当のアルバムだ。ヤイール・エラザール・グロットマンによるブレスド・イニシアティヴのファースト・アルバム『ブレスド・イニシアティヴ』。個人的には2016年ベストに入る。2016年の最先端音楽のモードが結晶しているからだ。
 イスラエル出身、現ベルリン在住のヤイール・エラザール・グロットマン(Yair Elazar Glotman)は、写真家の父を持つサウンド・アーティスト/プロデューサーである。本年、すでにKETEV名義としてアルバム『アイ・ノウ・ノー・ウィークエンド』(なんというタイトル!)をリリースしており、鋭い感覚の音楽ファンの耳を射止めていた。KETEVの漂白されたインダストリーなサウンドは強烈だが、このブレスド・イニシアティヴはそれをも(軽々と)超えてしまっていた。最先端音楽のモード=「ミュージック・コンクレーティズム」なサウンドが見事な音像/構造として結実していたからだ。今、ヤイール・エラザール・グロットマンの才能は大きな結晶化をみせつつあるのではないか。

 ヤイール・エラザール・グロットマンといえば、エンプティセットのジェイムズ・ギンツブルグとニンバスとしての活動も知られており、くわえて2015年には傑作ソロ・アルバム『エチュード』も発表している。特に『エチュード』は弦楽インダストリアルとでも形容したいほどのアルバムであり、現代音楽とインダストリアルなアンビエントが、生々しい音響空間の中で交錯していた。このアルバムでヤイール・エラザール・グロットマンは確実に飛躍した。凡庸なポスト・クラシカルなど消失させてしまうようなダーク・モダン・クラシカル・アルバムなのである。
 だが、本作『ブレスド・イニシアティヴ』は、その『エチュード』を超えている。本作は、現代の音/環境に発生する様々なノイズ(世界の環境音、デバイスが発生させる音、コンピューターが生成するノイズなどなど)を、ひとつ(にして複数の)の流れ=フロウとしてコンポジションしていく。いわばミュジーク・コンクレート的な手法によって、基底財となっているテクノからベース・ミュージックをバラバラに解体し、分断し、周期的なリズムを消失させていく。ヤイール・エラザール・グロットマンは、その微かな残骸を抽出し、新しい音響として、再構成し、その細やかなノイズのむこうに、まるで宗教曲のような清冽な響きや旋律をレイヤーしてみせるのだ(2曲め“ジャズ・アズ・コモディティ”など!)。そう、まるで世界/自己の救済への希求のように? 世界の再構築のように?

 私は本作を聴きながら、2013年に〈モダン・ラヴ〉がリリースしたザ・ストレンジャーの『ウォッチング・デッド・エンパイアーズ・イン・デコイ』を継承する(超えた?)アルバムが、とうとう生まれてしまったと思った。ノイズ、アート、テクノ、都市、廃墟、彷徨、人間、ロマン主義、その終わりとしてのノイズのフロウ、ビートの残骸、微かな賛美歌の痕跡、個、世界。それらが2016年的な精密なサウンド・コンクレーティズムな美意識の中で交錯し、脳神経に直接アディクションする……。ああ、なんという刺激か。なんという快楽か。
 繰り返そう。『ブレスド・イニシアティヴ』は、世界のノイズをミックスする。なぜか。世界の崩壊すらも美しい現象のように見据えるために、である。 この『ブレスド・イニシアティヴ』は、内面と刺激、個と外、そのふたつを、サウンドトラックのように繋げる。アルカの物語性を宙に浮かす「魂」の彷徨のような音響空間は、2016年の最後から2017年の初めにかけて、つまりこの「冬の時代」に、もっとも必要な音楽といえよう。ヤイール・エラザール・グロットマンによる「新しいペルソナ」には、今=同時代性のモードが強く横溢している。これぞ電子の福音ではないか。

デンシノオト