Home > Reviews > Album Reviews > Gabby & Lopez- Sweet Thing
最近の流れであるとか傾向とかトレンドのようなものと、このアルバムはいっさい関係ないところにあるので、極めて主観的なレヴューになってしまうだろうが、まず言っておきたいことは、ここ数年間でもっとも軽い音楽、空気のように軽い音楽がこれで、その軽さゆえに人は選曲を間違えたDJのように戸惑いを覚えるだろう。みんなが怒っている/もしくはどうでもよくなっている/もしくは不安がっている/もしくはやる気満々のこの時代に、いやなにこの軽さ……である。個人的に追い続けている音楽のひとつ、ギャビー&ロペスの5年ぶりの新譜を一聴したときに感じたのは、自分がふだん聴いている(ある種ファナティックな)音楽とのあまりの落差からくる違和感だった。
なに言ってるんだよ、これがいつものギャビー&ロペスじゃないか。さてそうだろうか? (故・中西俊夫氏の功績のひとつと言える)ナチュラル・カラミティの時代から大筋は変わっていない森俊二のギターの音色……石井マサユキとのギャビー&ロペスを結成し、自分たちの表現を追求し、思い出したかのように作品をぽつぽつと出し、そしてぼくは毎回同じように個人的に好きになり……だが、時代と格闘している音楽がとくに印象深かったここ1〜2年の流れで聴いたときは、うーん、これでいいのだろうか、と思ったのが正直なところだった。時代と切り離されているということは、孤立しているということである。庶民的なるものからは隔絶されているということだ。
が、2回、3回と通して聴いて、4回目を聴いたころには、リフティングを10回できるようになった少年がすぐさま100回できてしまうように、むかつくぐらいリラックスしているこの新作をぼくは何回も繰り返し聴いているのである。そしていまは、本作が彼らにとってのひとつの高みではないかとさえ思っている。一聴したところ地味に思えるこの音楽は、じつに繊細な構造を持っており、変化の乏しく思える曲調もじつは華麗に変化する。前作までにあった物語性はさらにまたミニマルに、つまり何かが起こることのないものへと発展している。深読みすればそれは、これだけ何もかもが起きている時代への、涙と汗に濡れたTシャツと過剰さへの反論とも受け取れる。
ふたりのギタリストは、さらにまた引くことで足しているのだ。ストイック、とも違う。出しゃばることはないが、自由に弾いてもいる。ふたりはこの30分強のなかで、混沌とした調和の境地に達している。ベスト・トラックは“DROPED BLUE”だろう。メロウで非日常的な“ACROSS THE RIVER”よりもこの曲だ。なぜならこの曲は、本作の1曲目の“SWEET THING”における日常的ミニマリズムの註釈とも言える。つまり、何も起こらないことの逆説的なドラマ。ギャビー&ロペスがこの作品で教えるのは、日常こそが最高のトリップということである。騙されたと思ってやって欲しい。このアルバムを聴きながらいつものように駅に向かい、電車やバスに乗ることを。
野田努