ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Lucy Railton - Blue Veil | ルーシー・レイルトン
  2. interview with Rafael Toral いま、美しさを取り戻すとき | ラファエル・トラル、来日直前インタヴュー
  3. Nazar - Demilitarize | ナザール
  4. Columns 高橋康浩著『忌野清志郎さん』発刊に寄せて
  5. Autechre ──オウテカの来日公演が決定、2026年2月に東京と大阪にて
  6. R.I.P. Brian Wilson 追悼:ブライアン・ウィルソン
  7. GoGo Penguin - Necessary Fictions | ゴーゴー・ペンギン
  8. 忌野清志郎さん
  9. Columns 対抗文化の本
  10. Rafael Toral - Spectral Evolution | ラファエル・トラル
  11. R.I.P.:Sly Stone 追悼:スライ・ストーン
  12. interview with caroline いま、これほどロマンティックに聞こえる音楽はほかにない | キャロライン、インタヴュー
  13. PHYGITAL VINYL ──プレス工場の見学ができるイベントが開催、スマホで再生可能なレコードの製造体験プログラム
  14. Dean Blunt - The Redeemer  | ディーン・ブラント
  15. These New Puritans - Crooked Wing | ジーズ・ニュー・ピューリタンズ
  16. Columns The Beach Boys いまあらたにビーチ・ボーイズを聴くこと
  17. Swans - Birthing | スワンズ
  18. world’s end girlfriend ──無料でダウンロード可能の新曲をリリース、ただしあるルールを守らないと……
  19. Ches Smith - Clone Row | チェス・スミス
  20. interview with Autechre 音楽とともにオーディエンスも進化する  | オウテカ、独占インタヴュー

Home >  Reviews >  Album Reviews > Donato Epiro- Rubisco

Donato Epiro

AmbientExperimentalMusique Concrète

Donato Epiro

Rubisco

Loopy

Tower HMV Amazon

デンシノオト   Mar 29,2017 UP

 〈ルーピー〉は、〈4AD〉のA&R、サミュエル・ストラングが設立したレーベルで、〈サブテクスト〉からのリリースでも知られるFISのアルバム『ザ・ブルー・クイックサンド・イズ・ゴーイング・ナウ』を、2015年に送り出している。まさに現在、注目すべきアンダーグラウンド・エクスペリメンタル・ミュージック・レーベルのひとつといえよう。
 その〈ルーピー〉の2017年におけるファースト・リリースが、イタリア人アーティストのドナート・エピロ『ルビスコ』である。ドナート・エピロは、カニバル・ムーヴィーのメンバーでもあり、ソロとしても、あの〈ブラッケスト・レインボウ〉や〈ブラック・モス〉からダーク/アヴァンなエクスペリメンタル・ミュージックをリリースしている。また、00年代後半からレーベル〈スタームンドラッグス・レコード(Sturmundrugs Records)〉を主宰し、あのディープ・マジックやTHEAWAYTEAMなどの作品を送り出してきたという重要人物でもある。
 本作は、これまで少部数のCD-R作品として発表した曲をまとめたアルバムだが、しかし、その廃墟のような音響空間は、まさに2017年的ポスト・インダストリアル・ミュジーク・コンクレート・サウンドである。聴き込むほどにドナート・エピロの先見性と、この作品を、2017年の今、リリースするレーベルの審美眼の鋭さに唸らされてしまう。

 細やかなノイズ、鼓動のようにパルスをベース、打撃のようなリズム、分断される環境音。それらは断片化され、まるで終わりつつある世界を描写するようにインダストリーなサウンド・スケープを展開していく。それはドローンですらない。新しい時代のミュジーク・コンクレートが生みだすアンビンエスがここにあるのだ。
 アルバムは、環境音らしき音の持続/反復から幕を開ける“Rubisco”からスタートするわけだが、いくつもの霞んだ音色のミュジーク・コンクレート的なトラックは、まるで世界の廃墟を描写するように静謐に、そしてダイナミックに展開する。さながら映画の環境音のように、もしくは夢の中の環境音のように、である。そして、アルバムは次第に音楽としての反復を獲得しながら、反復と逸脱を重ねていくだろう。特に5曲め“Nessuna Natura”、6曲め“Scilla”のサウンドを聴いてほしい。

 私には、このアルバムに収録されたトラックは、いわば、ジャンクな世界に満ちたジャンクなモノの蠢きによって再構築し、それによって、廃墟的なロマンティズムをコンポジションした稀有な例に思えた。これが2009年から2010年までに少部数リリースされたCD-R作品からの曲というのだから、そのあまりの先見性に、もう一度、唸ってしまう。音楽とSFは世界を預言するもの、とはいえ。
 世界が最悪になっているのなら、その最悪さを引き受け、人というモノ以降の世界の廃墟のセカイを音によって描き切ってしまうこと。そのような「廃墟のアンビエンス」が本作にはある。美しさと郷愁がともに存在し、そして鳴っている。私には、その「ヒトのいない世界のザワメキ=音響」が、とても穏やかなアンビエンスに聴こえてしまうのである。

デンシノオト