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Smagghe & Cross

AmbientExperimental

Smagghe & Cross

MA

Offen Music

TechniqueNewtone

三田格   Apr 19,2017 UP

 スペイン語圏の映画が半世紀ぶりに力量を回復しているのに対し、イタリアとフランスの映画はどうにも低調なままである。80年代に似たような地獄を見たイギリスと日本の映画界でさえ見事に息を吹き返したというのに、特にフランス映画は企画性ばかりが目につき、それこそカンヌでパルムドールに輝いたケン・ローチ『わたしは、ダニエル・ブレイク(I, Daniel Blake)』と同じ年にほとんど同じストーリーで、ステファヌ・ブリゼ『ティエリー・トグルドの憂鬱(La loi du marche)』がつくられているにもかかわらず、大した賞は与えられず(セザール賞ではノミネートのみ)、足元で起きている問題に目が向いていないのかとさえ思ってしまう。ポップ・ミュージックも同じくでフレンチ・タッチからエレクトロクラッシュまであれだけ出てきた才能も外国のレーベルに散り果て、次の世代との橋渡しがうまくできなかった結果、フランスのレーベルからリリースされるのはシカゴやデトロイトのプロデューサーの方が多いのではないかと疑ってしまう。オリジナル崇拝が過ぎるというのかなんというか。

 ここ数年のエレクトロ・リヴァイヴァルに伴い、いつの間にかDAFスタイルが増殖し、ついでのようにエレクトロクラッシュも呼び戻されている。そんななか、ゼロ年代初頭にエレクトロクラッシュを先導していたブラック・ストロボの初期メンバー、イヴァン・スマッグが活発にリリースを回復させている。ブラック・ストロボのどこからどこまでがイヴァン・スマッグだったのか、同じくキル・ザ・DJもどこまでが彼だったのか、その後はエレクトロ・ハウスのミックスCDを数作まとめただけで、どうも掴みどころのない存在であり続けたものの、アンディ・ウェザオールをダウンサイジングしたような彼の存在感はやはり僕の頭のどこかには残っていたらしい。昨年、〈クラック&スピード〉のティム・パリスと組んでリリースしたイッツ・ア・ファイン・ライン名義のデビュー・アルバムは実のところあまり面白くはなかった。しかし、新たにルパート・クロスとタッグを組んだユニットでは「掴みどころのなさ」をそのままテーマとして凝縮させ、全体としてはミュジーク・コンクレートに現代性を持たせ、半分ぐらいはOPNに対するフランスからの優雅なアンサーを聞かせてくれた。ルパート・クロスの素性はよくわからない。スコットランドの映画音楽家、パトリック・ドイルのアシスタントを務めているようで、なるほど映画音楽に通じる情景描写がスマッグ&クロスの『MA』には溢れている。パトリック・ドイルはカトリーヌ・ドヌーヴの『インドネシア』や、最近ではケイト・ブランシェットの『シンデレラ』などを手掛けている作家。 

 まずはジャケット・デザインがいい。オフィーリアをアシッド漬けにしたようなイメージ。ヨーロッパ的なオブセッションから表面的な暗さを取り除いている。かといってアメリカ的でもない。なんというか、絶妙のスタンスを感じさせる。オープニングはガムランを思わせる「カーリロン(Carillon)」。オリエンタル・ムードを引きずりながら続いてドローン調の「マイ・ハート・ザ・ビート・スキップド(My Heart The Beat Skipped)」へ。「ワレン(Warren)」ではポルカのような(?)エレクトロのような(?)二拍子のミニマル・ミュージックがインサートされ、ピアノとフィールド・レコーディングを組み合わせた「オンド・デ・チョック(Onde De Choc)」でも伝統と現代性は激しく衝突している。「オステンダ2(Ostende Pt. 2)」や「スロウダイヴィング(Slowdiving)」ではゴングやスペースクラフトといったフレンチ・プログレの最良の成果をアンビエント・ミュージックとして再生、再評価の機運が高いエリアル・カルマやミッシェル・レドルフィなど発掘音源の動向とも重なって見えるものがある(このアルバムの売りは、アデル・ストライプというオフビート・ジェネレイションの小説家による朗読が「コック・オブ・ザ・ノース(Cock Of The North)」でフィーチャーされていることだとあちこちの紹介やらレビューなどには書いてあるんだけれど……誰だ、それは?)。先に「掴みどころがない」と書いたけれど、後半はチル・アウトの道程がそれなりに組まれてはいる。エンディングもシルヴェスター「サムバディ・トゥ・ラヴ・トゥナイト(Somebody To Love Tonight)」のアンビエント・カヴァー。

 ここ数年、〈クレクレブーン〉や〈アンチノート〉などフランスから伝わってきたアンダーグラウンド・サウンドは本当に少ない。ジェフ・ミルズによるとフェスなどのイヴェント・レヴェルではテクノはいまフランスが一番面白いともいう。〈ブラザーズ・フロム・ディッフェレント・マザー〉や〈フラジャイル・ムジーク〉といったレーベルの次があるなら、誰か早く伝えて欲しい。

三田格