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北中正和

 音楽で複雑なことを表現しようとするとき、普通のミュージシャンは難しいコードを使ったり、リズムの実験を重ねたり、音数を増やしたりして、足し算や掛け算で対応しようとする。『ファンタズマ』のころまで、コーネリアスもそうだった。

 しかしそれが『POINT』では一転する。音数が激減して、簡潔かつポップになったのに、奥行きが深まったのだ。何が彼にその転換をうながしたのか、不勉強でよく知らないのだが、数少ない音で、一聴してコーネリアスとわかる音楽が出現。次の『SENSUOUS』はその方向の洗練を極めたアルバムだった。

 そこから反射的に連想されるのは、純邦楽における間の感覚、石庭に象徴される禅の思想、俳句の省略の美学などだった。べつに日本の音階が使われているわけでも、和楽器が演奏されているわけでもないのに、そこにはまぎれもなく伝統をふまえつつ更新していく現代の日本のポップスの姿があった。
 それから11年。アルバム『Mellow Waves』に先立って発表されたシングル「あなたがいるなら」は、まさにその延長線上の曲で、落ち着いた演奏にポップなヴォーカルがのっかっている。作詞は坂本慎太郎。音楽は小山田圭吾。現在望みうるかぎり最強のコンビの期待にたがわぬ名ラヴ・ソングと言っていいだろう。

 セカンド・シングルの「いつか/どこか」は小山田圭吾が作詞作曲したファンク・ロック・チューン。ドラムやベースやシンセの音は、「あなたがいるなら」のキーボード同様、往年のR&Bやファンクを思わせるが、歌の後ろのリズム・ギターはどちらかといえばカントリー系、間奏はワイルドなノイズ系で、歌も含めた全体の組み合わせは、ありそうでなかったものだ。
 この曲、 歌声は軽快だが、うたわれていることは、諸行無常の世界。隠遁した老人の思いを先取りするかのような歌に驚く。アルバムではそれは、この曲の次に置かれた“未来の人へ”の内容にもリンクしている。こちらの歌は、自分のアナログ・レコードが遠い未来の誰かに聞かれることを想像する内容だが、その関係はそのまま、いまレコードを聞いている自分とそのレコードの作者の関係にあてはまる。これも坂本慎太郎の作詞だ。
“夢の中で”は夢の深層心理の歌で、漢字の四文字と三文字の熟語が出てくるところは、細細野晴臣や高野寛の初期の作品みたいだなと最初は思ったのだが、探索中という歌詞は、探し物は何ですか、という井上陽水の“夢の中へ”にも通じる。この交錯が意図的でないとすれば、実に興味深いシンクロニシティだ。
 ループが巧みに使われた「Mellow Yellow Feel」にしても、雨の日の気分を一筆書きのように描いた“”The Rain Song”にしても、磨き抜かれた透明感のあるサウンドと最小限の言葉からイメージがどんどん広がっていく。こういう作品では、物語性をはらんだ坂本慎太郎の詞の作風とのちがいもよくわかる。

 他の作品にふれる字数がなくなったが、2010年代の名作として語りつがれていくであろう素晴らしいアルバムの登場を喜びたい。

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