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あんたは携帯と髪の毛いじりに時間を取られる過ぎているんだよ。 “ヒュモンガス”
年を食っちまった人間は、こういうときについつい、この青年の18という年齢のことを必要以上に考えてしまうのだろうか。実際のデクラン・マッケンナのキャリアは数年前からはじまっている。“ブラジル”という、ブラジル・ワールドカップ時のFIFA汚職事件を糾弾する曲が2年前。それは16歳の少年の作る歌の主題として……、イングランドに生まれながらワールドカップを醒めた目で見ているというだけでも非凡なのかもしれない。が、しかし、16歳の澄んだ目だからこそ狂騒に飲み込まれず、大人の堕落を見抜く観察眼を忘れない。
アルバムの最初の3曲は、かなり良い。くだんの“ブラジル”も、歌詞を知らなくても充分に魅力的な曲で、“ヒュモンガス”も“ザ・キッズ・ドント・ワナ・カム・ホーム”も、ファーストの頃のプライマル・スクリームというか、90年代風というか、ある世代が聴いたら懐かしいことこのうえなく、丘の上を駆け上がるかのような高揚感の、フックのあるメロディを持ったUKインディ・ロックらしい曲だ。アルバムの多くの曲をプロデュースしているのはジェームス・フォード(シミアン・モバイル・ディスコ/ザ・ラスト・シャドウ・パペッツ)。
しかしながら、ドレイクの新作を聴いていても感じることだが、USのR&B/ヒップホップ大人気のUKにおいて、自国のインディ・ロックの脈を全開する若者なんていうのは、いまとなっては少数派になるのではないだろうか……。
ぼくとは、(あなたが思っているようなぼく以外の)ほかの誰かみんなだ。 “アイ・アム・エヴリワン・エルス”
ラップだけがユース・カルチャーを代弁しているわけではない。ハートフォードシャー生まれの18歳のシンガー・ソングライターは、彼の目を通して見える社会と、そして怒りや抗議,不満を歌う。言葉を持った音楽は、英語力のある方ならともかく、まあ、さすがにchavは訳注を入れるべきだと思うけれど、それでも歌詞対訳のついた日本盤がいい。デヴィッド・ボウイ的な挑発的だが曖昧な言い回しのなかに、それこそスリーフォード・モッズではないが緊縮と福祉、宗教、暴力、性、これら社会的トピックが彼の言葉で描かれているように思われるる。“イソンバード”でのリフレイン「歩けないなら走ればいいさ」は暴動を望んでいるかのようでもあり、「君のクイーンになりたい」も(これこそボウイを意識しているのかもしれないが)面白いし、『車についてどう思うか?』というアルバム・タイトルもリスナーに“考えること”を促しているわけだが、何にせよ、本作で歌われる力ある(生意気な)言葉もUKインディ・ロックの、言うなればお家芸である。
デクラン・マッケンナはフェイクかリアルか?
数年前の「公営団地のボブ・ディラン」ではないが、マッケンナに関してメディアは「世代の声」といっているようだ。“ザ・キッズ・ドント・ワナ・カム・ホーム”における子どもたちの祝福的なコーラスを聴いていると、たしかに「世代」と言いたくはなる。が、それはひとつの演出だろう。「世代の声」とは、年を食っちまった人間の願望(フェイク)だ。
デクラン・マッケンナはフェイクかリアルか?
『ホワット・ドゥ・ユー・シンク・アバウト・ザ・カー?』は、まだ手なずけられる前の、若者らしい自信と反抗心、そして疑いがあり、まとまりには欠けるが、言いたいことが詰まっている、若さゆえの輝きがある、素晴らしい10代の作品だ。ぼくはリアルだと思う。第一基準は満たしている。歴史は「NO」という人たちによって作られるのだから。
野田努