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イタリアの2人組ベイブ・ルーツを知るキッカケは、レーベルやWebマガジンなど多角的に活動している、〈Electronique.it〉のポッドキャストだった。そこに提供したミックスでふたりは、ジャッキー・ミットゥ、ホレス・アンディー、リズム・アンド・サウンドらの曲を接続し、メロウなグルーヴと小さじ一杯のトリップをもたらしてくれた。さらに面白いのは、ベイブ・ルーツというユニット名だ。このミックスを紹介する記事に提供されたアーティスト写真がベイブ・ルースだったから、“そういうことか……”とすぐ察しがついた。こうしたストレートな遊び心は嫌いじゃない。
というわけで、ミックスを聴いたあと、さっそくふたりの作品を手に入れた。手始めに購入したのは、2016年に〈Rohs!〉からリリースされたシングル「Dub Sessions 1」。先述のミックスから、ダブ/レゲエの要素が顕著なのだろうと予想していたが、良い意味で期待が裏切られた。より正確に言うと、緊張感漂うシャープな音像はダブ/レゲエ色を滲ませるが、そこへ冷ややかな電子音を混ぜていたのだ。そうして生まれたサウンドには、リズム・アンド・サウンド以上に、ベーシック・チャンネルの影を見いだせる。このふたつのユニットは、共にモーリッツ・フォン・オズワルドとマーク・エルネストゥスによるものだが、それぞれの良いとこだけを頂戴したような音楽が「Dub Sessions 1」だった。その後もふたりは、〈Linear Movement〉から発表した「Tribal War/Sweet」など、コンスタントに作品を作りあげてきた。作品ごとの違いはあるものの、ダブ/レゲエを基本としているのは変わらない。節操なく流行を追いかけるより、自分たちの音を追求するのがふたりの質らしい。
そんなふたりが、ファースト・アルバム『Babe Roots』を完成させた。ここでもふたりは、やはりダブ/レゲエを軸にしている。ヘヴィーな低音を強調し、無駄のない音像は非常にシャープだ。そのうえでトリッピーなグルーヴを生みだし、甘美な心地よさが作品全体を覆っている。ディレイやリヴァーブの長さといった、細かいところに行き届いたプロダクションも相変わらず。ファースト・アルバムにしては、あまりに出来過ぎな完成度。
特筆したいのは、オープニングを飾る“Intro”だ。メタリックな電子音とユーフォリックなホーンの響きで始まるこの曲は、これまでふたりが見せてこなかった表情を楽しめる。ダブ/レゲエはもちろんのこと、秘境的な雰囲気が漂うサウンドスケープはニュー・エイジを彷彿させるのだ。こうした方向性のアルバムも、ぜひ聴いてみたい。
“Intro”以外はヴォーカルをフィーチャーしているのも興味深い。〈ZamZam Sounds〉から発表した「Be Still」など、これまでも何度かゲスト・ヴォーカルを迎えることはあったものの、ここまで歌を前面に出してくるとは思わなかった。とりわけ秀逸なのは、ミリー・ジェイムスが参加した“Falling”だ。幻惑的なサウンドが舞う中で、ミリーが蠱惑的な声を聞かせてくれる。そこにはトリップ・ホップを想起させる酩酊感があり、クラブのチルアウト・タイムで機能するのはもちろんのこと、ポップ・ソングとして聴いても違和感がない。
最近のイタリアといえば、〈Editions Mego〉や〈Warp〉から作品をリリースしているロレンツォ・セニといった、テクノ方面の盛り上がりが注目されている。しかしベイブ・ルーツは、ベース・ミュージック方面も面白いと私たちに気づかせてくれる。
近藤真弥