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デビュー・アルバム『Novelist Guy』をリリースしたノヴェリスト。これまでマムダンスとのコラボEPを2014年に〈XL・レコーディング〉よりリリース、スケプタのヒット・アルバム『Konnichiwa』への参加、チェース&ステータスの客演など印象的なコラボレーションをいくつも重ねてきている。その注目のデビュー・アルバムは何回かの発売延期の末、自身のレーベル〈ウーンイェア・レコード〉(Mmmyeh Records)からのリリースとなった。ほぼ全曲をノヴェリストが制作し、グライムのBPM140からラフサウンド(BPM160)までと幅を広げた。浮遊感のあるシンセが奏でるもの悲しげな雰囲気、モノトーンでエネルギッシュなラップが独特のサウンドを鳴らしている。
もしノヴェリストのエネルギッシュなスタイルを知りたければ、まず“マン・ベター・ジャンプ・アップ”や”ノヴ・ウェイト・ストップ・ウェイト”を聴いてみればいい。ソウルが滲み出るラップ、歪んだキックと無骨なビートが組み合わさり、鋭くもポップな曲となっている。アルバムはそれだけではない。より重要なのは、若干21歳のノヴェリストがロンドンの同世代の若者に向けられたメッセージにあると思う。
伝えられる情報は間違っている
だからおまえ自身でおまえの欲するものを学べ
そう、欲するものを学ぶんだ
“ドット・ドット・ドット”
2曲目“ドット・ドット・ドット”には、ロンドンの若者を夢中にさせるノヴェリストからの責任感あるメッセージが込められている。彼はこの曲で、「自分で考えて行動しろ」と伝えている。だからといって、彼は上から目線で、聖人君主のようにロンドンの若者に教えを説いている存在ではない。ノヴェリスト自身が「俺らにはギャングスタのやり方しかわからない」と告白する3曲目“ギャングスタ”は、ノヴェリスト自身がギャングスタ、反抗的な若者の側であると主張する。
ビッグボス・スピッター、それが俺のなるべき者
フッドで生まれ育った、俺の邪魔はするなと奴らに言ってやらなきゃな
郵便番号(コード)にこだわる、実はそれが俺のポリシー
ギャングスタとしてそこは誠実にやるって自分に言い聞かせる
“ギャングスター”
ノヴェリスト自身が、先日ツイッター上で「このアルバムがiTunesにエクスプリシット・マーク(Explicit)*を付与されたこと」について強く抗議していた。じっさい『Novelist Guy』には性的な表現やNワードのような露骨なスラングは一切使われていない。抗議の背景には、注意深く言葉を選び、スラングや“汚い”言葉を使わずに若者に広くメッセージ届ける、ロールモデルたる姿勢が感じられる。
俺は明確なヴィジョンを持ったきちんとした大人
俺みたいに考えたいか、なら聞いておけ
俺は与えられたものを受け取る奴じゃない
選択肢が見えないときでも選択肢が見える
太陽が登って落ちる訳ではない、地球が回ってるんだ
俺には光と闇が見える、
輝きがないときでもそこに光はある
“アフロピック”
この曲は、アフロの櫛(Afro Pick)を自身のブラックネスを象徴する存在として取り上げているのだろうか**。そこで語られるのは、黒人の若いギャングスタでありながら、違う考え方でものごとを捉える姿勢、それによってなるべき姿に近いているということだ。
次の“ストップ・キリング・ザ・マンデム”でも、ブラックネスは強く意識されている。マンデム(Mandem)はロンドンの黒人の間でよく使われているスラングで、マン(Man)とほぼ同じ意味だが、「友だち」とか「身内」というようなニュアンスが含まれている。つまり、俺の友だちとか俺の身内を殺すな、というメッセージなわけだ。“ストップ・キリング・ザ・マンデム”という言葉は、ロンドンのブラック・ライヴス・マターの運動でノヴェリスト自身がデモ中に掲げたプラカードのメッセージでもあった。彼は世界中で黒人がターゲットされて警察に暴力を振るわれていることを問題視し、黒人を潜在的な意味で危険視するメディアにも厳しい目線を向けている。
https://www.instagram.com/p/BhhYei2HVhs/
法を破ることは文化のせいじゃない
法を破ることは社会のせいじゃない
問題にガンフィンガーを立てたからといって、
俺はしょっぴかれる訳じゃないだろ
黒人は世界的にターゲットになっていて
ニュースはまるで俺ら自体のせいみたいに扱う、
それは遠く、ローカルで起きていることみたいに話しやがる
問題は、俺がこの問題について話すからって訳じゃないだろ
少年が反社会的になるのは、
彼らがもっと人生をソウルフルに過ごしたいってことなんだ
“ストップ・キリング・ザ・マンデム”
ここで彼がBLMついて話すことは、なにも大文字の「政治」について話すことだけではない。彼の周りの若者やギャングスタについて話すことなのだ。
アルバムの後半ではライヴのエネルギー溢れる雰囲気の曲が続き、スキットではインターネットラジオでのMCとのセッションの様子が垣間見える。(これがまためちゃくちゃ速射のラップで凄い)
そして、ラストソング“ベター・ウェイ”のふたたび内省的なリリックでこのアルバムを締めることになる。ここでは、“アフロピック”で出てきた太陽の喩えが再び登場する。先ほど太陽は人生に選択肢を与える存在として出てきたが、ここではイナーピース***を象徴している。
陽が落ちる。いい気分だ、疲れ切っていない。
空を見上げる、理由はわからないが、頭は雲のうえにある
疑いようもない、俺のエネルギーが尽きることはない
俺は俺のギャングスタにリアルであり続ける、
俺たちのママに俺らを誇らしくする
“ベター・ウェイ”
『Novelist Guy』にはノヴェリストから団地の若者へ、ロンドンの黒人へ、ギャングスタへ向けられたポジティヴなメッセージが詰まっている。そう、アルバムのジャケットのように、彼らの頭上にいつか陽が昇り、光が照らすように。
* 教育的に問題のあると見なされた露骨な表現が含まれるというマーク、iTunes版のParental Advisory
**彼は最近アフロピックを刺したままフリースタイルをしている。
https://www.youtube.com/watch?v=AujWZ-SVsXM
***精神が落ち着いていて、内面的に落ち着いたな状態
米澤慎太朗