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サムシング・フォー・ユア・マーイン、といえば90年代テクノ・キッズにとってはスピーディーJの1991年の代表曲(2001年にはファンクストラングによってリミックスもされている)なので、元ネタのC’hantalの"The Realm"の同じフレーズをサンプリングどころかもっと大胆に引用して脱力ポップ・サウンドに仕立てた"Something For Your M.I.N.D."が掌の上の小さなスマートフォンから見知らぬプレイリストに乗って流れてきたときには、その強烈なインパクトに思わず動作が止まったものだ。
スーパーオーガニズムは昨年のその時点でまだ謎の存在で、そこからこの曲はどうやらフランク・オーシャンやヴァンパイア・ウィークエンドのエズラが紹介したことがきっかけで人気に火が付いたらしいと判明し、ヴォーカルが17歳の日本人の女の子だという話題性も加わって世界と同時進行で日本でも徐々に注目されていく。
今年2月の初来日公演はファースト・アルバム発売前にも関わらず、なんとソールドアウト。インターネットを介してじわじわと浸透していくスピードはいかにも現代的で、見ていて痛快だった。"Something For Your M.I.N.D."はいまやサッカーゲームの「FIFA18」のサウンドトラック曲として、ザ・XXやスロウダイヴ、ザ・ナショナルなどの大御所とともに使用されているほど。
そもそもスーパーオーガニズムの構造自体が面白い。アメリカに在住していたヴォーカルのオロノが2015年の夏休みに帰省した際に、来日していたジ・エヴァーソンズのライヴを観に行ったことをきっかけに彼らとインターネット上で交流を深めていき、バンドのメンバーのうちの4人がコーラス兼ダンサーの3人を加えて新たに始めたプロジェクトのヴォーカルにオロノが大抜擢された、と何だか架空のプロフィールのようによくできた話。
軽快なビートに親しみやすいメロディと超ダルそうな歌声を重ねた不思議な音はかつてのチボ・マットを彷彿させ、デーモン・アルバーンの新しいプロジェクトだと疑われたというのも納得できる。多国籍なメンバーで構成されたサンプリング多用のヒップホップ的な感覚はザ・ゴー!チームと似ているかもしれない。
しかし実際の彼女たちの映像を覗いてみると、敢えて狙ったような荒っぽさやローファイ感は一切感じられないニュータイプのようで、メンバーのなかで誰よりも若くて小さいオロノは奇妙な仲間を引き連れた賢者のように勇ましく見えるし、まったく愛想を振りまかずに堂々としているところもステレオタイプな日本人のイメージを覆せと言わんばかりでカッコいい。
現在8人のメンバーはイギリスのシェアハウスにて共同生活を行っているそうで、曲づくりは基本的にチャットグループの会話でアイディアを出し合い、ファイルを共有して制作されているのだとか。しかし現代のテクノロジーを駆使しながらも世の中の主流に異を唱える姿勢はしっかりと見せ、アーティスト写真にしか登場しないロバートがMVなどの映像制作を、ドラムのトゥーカンがミキシングを担当、ジャケットのイラストはオロノが手掛けるという徹底したDIYっぷり。
ちょうど最近目にした文章の中にDIYについて書かれた興味深い一文があって、それによると、DIYには自分で人生をコントロールできると感じ、疎外感がなくなる利点があるという。何かを生み出すことでしくみがわかり、視点が変わり、世界が違って見えるということ。スーパーオーガニズムの音楽のなかでは目覚ましが鳴り、鳥が鳴き、水が流れ、子供たちが笑い、りんごをかじる音が聞こえ、ゲームの音や緊急地震速報やクラクションが鳴らされる。そこに無機質なドラムが歪んだギターと強度のあるモーグシンセが絡まってストレンジな音に膨れ上がると、上がりすぎた熱を下げるようなクールな歌声が聴いている者を気軽に出入りできる自由な空間へと導く。コーラス隊の奇妙なダンスも、シンセを操るエミリーの耳で揺れるイヤリングも、キラキラと光るフェイスペインティングも、どれもが音楽の一部として自信に満ち溢れ、存在感を放っている。それは新しい世界のように眩しくて、生き生きとして、未来のようでもあって。
俺とお前でこの世界を照らせるんじゃないかな
今夜はみんなスターなんだ
なんでだかは知らないけど
そう歌う"Everybody Wants To Be Famous"だけは、アルバムに収録されている曲のなかで唯一、公開時のアートワークをオロノではなく日本人の高校生の伊勢健人が手掛けている。一昨年ザ・コレクターズの30周年記念シングル"愛ある世界"のジャケットのイラストを描いた彼もまた、元々オロノとネット上の友だちだったそう。ほらね、現代には国や性別や年齢や経歴が違う人たちと気軽に交流できる便利なツールがあって、その気になればひとつに集まって超個体(スーパーオーガニズム)に変身できるのだ。隣にいる嫌なやつはあんたの仲間じゃない。だから仲良くしようじゃないか、世界と。
大久保祐子