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Sugar Plant

Indie Rock

Sugar Plant

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柴崎祐二   Jun 05,2018 UP

 私の世代(1983年生まれ)は、リスナー体験として、ギリギリSugar Plantの活動が旺盛だった時代に間に合っていない。前作『dryfruit』がリリースされた2000年あるいはそれ以前といえば、レイヴ・シーンはもちろん、まだ東京の先端カルチャーのことなど知る由もないような、青い年頃だったから。
 その後東京へやってきて、「LAW LIFE」などのイベントに触れることができたわけだけれど、その頃には残念ながらSugar Plantの活動はすでに沈黙期にはいっていたのだった。当時、カッコいい(だけどちょっとだけ怖そうな)先輩たちに「キミはどんな音楽が好きなの?」と訊かれて、(本当はザ・フーが一番好きだったけどインディ・スノッブを気取って)「シー・アンド・ケイクとか、ヨ・ラ・テンゴとかとか好きです!」と答えたりしたものだが、そうするとかなりの頻度で「最近はあんま活動していないんだけど、Sugar Plantって日本のバンドがいてさ、おすすめだよ~」などと返されたものだ。
 そうやって私の意識には、Sugar Plantはその頃からすでに「幻のバンド」としてインプリントされていたのだった。だから、後年(2011年だったと思う)、Sugar Plantにサポート・キーボーディストとして参加したこともある高木壮太氏も在籍のバンド「LOVE ME TENDER」のリリース・パーティにて、対バンとして出演した彼らのライヴを目撃できたことは、大きな印象を私に与えた。ソリッドな編成ながら、奏でられる音はあくまで柔和で、空間を包み込む。決して大音量というわけではないのに、体全体が音に浸されていくような感覚。サイケデリックと言えども閉塞的な空気とは無縁で、どこか飄然とした開放感があった。ちょうど世界的にチルウェイヴやネオ・シューゲーザー的サウンドが盛り上がりを見せていたこともあり、そういった文脈における先駆者として注目される向きもあったが、私はむしろ、それだけでは捉えることのできない魅力に強く惹かれたのだった。
 
 ついに。いよいよ。ここに新作『headlights』が届けられることになった。前作からなんと18年ぶりのリリースだ。そしてこれは、私が初めてリアル・タイムに触れるSugar Plantの新作アルバムである。

 M1“Days”は、オガワシンイチによる流麗なギターのアルペジオのあと、ショウヤマチナツの抑制されたヴォーカルが表れた瞬間、Sugar Plantならではメロウネスが新録で届けられることの歓びが湧き上がってくる。リズムは、チナツがこの間活動をしてきたソロユニット、cinnabomに通じるブラジル音楽風味を湛え、メロディは、キング・クリムゾンのチルな一面を代表する名曲“I Talk to the Wind”を思わせもする。なんと素敵な幕開け。
 続くM2“headlights”は、バンドのルーツでもあるヨ・ラ・テンゴやギャラクシー500を思わせるフォーキー・サイケデリア世界。いまになって振り返ってみると、先述のように以前にチルウェイヴの文脈などでから再解釈された側面よりも、この曲に見られるようなスロウコア、サッドコアと共振する「歌心」こそがやはりバンドの魅力の本質に近いのだろうという気がしてくる。
M3“north marine drive”は言わずと知れたベン・ワットによる名曲のカヴァー。オリジナル版よりテンポを落とし、原曲にあった清涼感はそのままに、Sugar Plantならではの妙味として、US東海岸サイケデイア由来のグルーミーな味わいが加えられている。
  M4“I pray for you”では、グッドメロディとディープ・ハウス的音像の融合が甘いサイケデリアを浮かび上がらせるという、かねてより彼らが丁寧に紡いできた世界が、最新の音響意識を纏い、最良の形で提示される。このあたり、本作のエンジニアリングを手掛けた田中章義の手腕とバンドの美意識の理想的な配合と言えるだろう。
 M5“dragon”は、透明なギター・サウンドが互いに絡み合いながら静かなうねりを作っていき、ピアノやシンセサイザーの響きも麗しく、もしもグレイトフル・デッドが2000年代にデビューしていたならこんな音楽を奏でたのかもしれない、などというロマンチックな妄想を掻き立てる。
 M6“I can’t live alone”は先の“north marine drive”にも通じるようなブラジル音楽を経由したネオアコ的世界を思わせるが、むしろここ数年来で興隆した、かつてのAOR~シティ・ポップをインディ・ミュージック視点から再構築するとう潮流に置いてみることでこそ、その魅力が際立つものかもしれない。そういった文脈でも、Sugar Plantの先駆的な音楽性は理解されてしかるべきかもしれない。
 M7“sea we swim”では、ネオアコからさらに遡り、ソフィスティケイテッドなポップスの源流としてのソフト・ロックを、Sugar Plant流儀で今様に再提示してみせる、極めて洗練された小品。
 M8“a son bird”はステディな8ビートが小気味よく曲を駆動する中、甘美なメロディがそよぐ風のように降りそそぎ、徐々に重ねられていく音のレイヤーと、まめまめしく奏でられるギター・ソロが、静かな熱狂へと導いていく。

 これまで聴いてきたように、今作『headlight』は18年ぶりのアルバムでいながら、まったくインターバルを感じさせない内容となっている。音楽的練度・完成度の点で優れているということは勿論だが、それ以上に、この間も彼らは自分たちの愛する音楽を、ただそのままに愛し続けてきたのだろうという、膨よかな安心感が聴くものの胸を温める。
 「幻のバンド」と思われようとも、また後年にそれまでの作品が様々な文脈で解釈・再評価され折々で「早すぎたバンド」と評されようとも、彼ら自身は、ただ興味のままに音楽を聴き、愛し、演奏し続けてきただけなのかもしれない。18年という時間は長いようだけれど、その間にもそれぞれが音楽に触れ続けていたからこそ、このように衒いのない豊かさに溢れた作品を作ることができたのだろう。
 Sugar Plantは時代の先を行っていたというより、時代がSugar Plantの音楽に憧れてつづけてきたということなのかもしれない。自らも音楽を飄然と慈しむなかで紡がれた、彼らの豊かな音楽に。

柴崎祐二