ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 忌野清志郎 - Memphis
  2. Element ──日本のダブ・レーベル〈Riddim Chango〉が新たにサブレーベルを始動、第1弾は実験的ダンスホール
  3. Robert Hood & Femi Kuti ──デトロイト・テクノ×アフロビート、ロバート・フッドとフェミ・クティによる共作が登場
  4. R.I.P. Shane MacGowan 追悼:シェイン・マガウアン
  5. interview with Lucy Railton ルーシー・レイルトンの「聴こえない音」について渡邊琢磨が訊く
  6. interview with Shinya Tsukamoto 「戦争が終わっても、ぜんぜん戦争は終わってないと思っていた人たちがたくさんいたことがわかったんですね」 | ──新作『ほかげ』をめぐる、塚本晋也インタヴュー
  7. Alvvays - @神田スクエアホール | オールウェイズ
  8. André 3000 - New Blue Sun | アンドレ3000
  9. 忌野清志郎 - COMPILED EPLP ~ALL TIME SINGLE COLLECTION~
  10. TOKYO DUB ATTACK 2023 ——東京ダブの祭典で年を越そう
  11. RC SUCCESSION - COMPLETE EPLP ~ALL TIME SINGLE COLLECTION~ 限定版  | RCサクセション
  12. WaqWaq Kingdom - Hot Pot Totto | ワクワク・キングダム
  13. 蓮沼執太 - unpeople | Shuta Hasunuma
  14. Ryuichi Sakamoto ──坂本龍一、日本では初となる大規模個展が開催
  15. Voodoo Club ——ロックンロールの夢よふたたび、暴動クラブ登場
  16. interview with Kazufumi Kodama どうしようもない「悲しみ」というものが、ずっとあるんですよ | こだま和文、『COVER曲集 ♪ともしび♪』について語る
  17. Jim O'Rourke & Takuro Okada ──年明け最初の注目公演、ジム・オルークと岡田拓郎による2マン・ライヴ
  18. Blue Iverson (Dean Blunt) ──ディーン・ブラントが突如新たな名義でアルバムをリリース、無料ダウンロード可
  19. Galen & Paul - Can We Do Tomorrow Another Day? | ポール・シムノン、ギャレン・エアーズ
  20. シェイン 世界が愛する厄介者のうた -

Home >  Reviews >  Album Reviews > Khalab- Black Noise 2084

Khalab

DubJazzTechno

Khalab

Black Noise 2084

On The Corner

Bandcamp

野田努   Aug 09,2018 UP
E王

 ひと言で言えば、ぶっ飛ばされますね、これは。トーキング・ヘッズの『リメイン・イン・ライト』から歌メロを削除して、あの音響のみを凝縮し、さらにダブ・ミキシングを加えて、高速で再生してみる。アフロ・ファンクのえもいわれぬエコーとグルーヴ。ポリリズミックな武装。圧倒的なトランス・ミュージック。
 いまでもまだ、アフロ・ミュージックのフレーズ/リズム/音色を取り入れているエレクトロニック・ミュージックには多少はもの珍しさという価値があるのかもしれない……いや、もうないか。ま、なんにせよ、しかしDJカラブのこれ──その名も『ブラック・ノイズ2084』は、記号的にアフロを取り入れているから面白いというわけではない。情報をかき集めて作ったものであることはたしかだろうが、小手先で作った音楽とは思えない濃密さと説得力がある。雑食性の高いサウンドだが、すべての音は有機的に結びついているし、そのすごさは下調べを要することなく伝わる。
 基本的に、『ブラック・ノイズ2084』はダンス・ミュージックのアルバムだ。その冴えたミキシングによる音響の独特さを備えた1枚であり、なんといってもここにあるリズムの迫力、躍動感に満ち満ちたアフロ・エレクトロが展開される。

 まずはアルバムの前半、Tenesha The Wordsmithという女流詩人がリーディングする表題曲“Black Noise”からシャバカ・ハッチングスがサックスを吹きまくる“Dense”という曲までの展開が最高。続く“Chitita”もヤバい。ダブ処理されたチャント、地面を這いつくばるベースライン、ゴーストリーなエコー……超越的なアロフ・フューチャー・テクノ。
 
 DJカラブは、クラップ!クラップ!のマブダチで(ele-king vol.20参照)、モー・カラーズニノス・ドュ・ブラジルとも親しくしているそうだ。もともとはラジオDJだったというが、10年以上前からローマでアフリカをコンセプトにしたパーティをはじめている。イタリアの音楽は将来的によりアフリカと交わっていくだろうという読みが、カラブにはあった。
 そしてアフリカの多彩なリズムのミキシングを試みるようになったというそのパーテで、カラブはエチオピアン・ジャズのリジェンド、ムラトゥ・アスタトゥケを招いているし、マリのベテラン・シンガー、ババ・シソコ(※アート・アンサンブル・オブ・シカゴにも参加している)にも出演してもらっている。そんな縁もあってカラブは2015年、ババ・シソコとのコラボ・アルバムを出しているが、それもまた素晴らしいです。
 2015年といえば、カラブはその年、〈ブラック・エーカー〉からのEP「Tiende! 」(クラップ!クラップ!も参加)によって注目を集めているようだが、しかし本作『ブラック・ノイズ2084』は、とてもそのEPなんかの比ではない。

 アフロ・ミュージックに精通している人が聴いたら、いろんな地方のいろんな音楽が、そして多彩な楽器音が再編集されていることに気づくだろう。シャンガーン、ゴム……、まあいろいろ。ぼくは最初はマーク・エルネトストゥスのンダガ・リズム・フォースを思い出したけれど、先述したように、『ブラック・ノイズ2084』はより雑食的であり、雑種である。そういう意味でも“ブラック・ノイズ”だし、そしてたしかにこの音楽はとことんやかましく、つまりノイジーなのだ。
 アルバムの制作時に、カラブはブリュッセルの王立中央アフリカ博物館を訪ねている。同所には、国王レオポルド2世による非情な植民地政策の痕跡も残されているというが、『ブラック・ノイズ2084』の背後には、植民地主義への批判精神、ヨーロッパ中心主義への怒りが込められている。2084とはリズムにちなんだ数字のようで、リズムは、呪いを振り払うための手段でもあった。
 とはいえこのアルバムは、政治的な音楽にありがちな悪い重さに支配されてはいない。アルバムの後半、コラージュ・アートめいたクラップ!クラップ!との共作“Cannavaro”から気鋭のUKジャズ・ドラマー、モーゼス・ボイドが参加している“Dawn”への流れもまったく拍手もの。

野田努