ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. rural 2025 ──テクノ、ハウス、実験音楽を横断する野外フェスが今年も開催
  2. Columns ♯13:声に羽が生えたなら——ジュリー・クルーズとコクトー・ツインズ、ドリーム・ポップの故郷
  3. Jane Remover - Revengeseekerz | ジェーン・リムーヴァー
  4. Hüma Utku - Dracones | フーマ・ウツク
  5. Saho Terao ──寺尾紗穂のニュー・アルバムは『わたしの好きな労働歌』
  6. Mark Stewart ——マーク・スチュワートの遺作がリリースされる
  7. interview with aya 口のなかのミミズの意味 | 新作を発表したアヤに話を訊く
  8. Joseph Hammer (LAFMS)JAPAN TOUR 2025 ——フリー・ミュージックのレジェンド来日、中原昌也誕生会にも出演
  9. interview with Mark Pritchard トム・ヨークとの共作を完成させたマーク・プリチャードに話を聞く
  10. MAJOR FORCE ——日本のクラブ・カルチャーの先駆的レーベルの回顧展
  11. 別冊ele-king 渡辺信一郎のめくるめく世界
  12. Mark Turner - We Raise Them To Lift Their Heads | マーク・ターナー
  13. Jane Remover ──ハイパーポップの外側を目指して邁進する彼女の最新作『Revengeseekerz』をチェックしよう | ジェーン・リムーヴァー
  14. interview with Louis Cole お待たせ、今度のルイス・コールはファンクなオーケストラ作品
  15. 青葉市子 - Luminescent Creatures
  16. interview with IR::Indigenous Resistance 「ダブ」とは、タフなこの世界の美しきB面 | ウガンダのインディジェナス・レジスタンス(IR)、本邦初インタヴュー
  17. Bon Iver - SABLE, fABLE | ボン・イヴェール、ジャスティン・ヴァーノン
  18. Adrian Sherwood ──エイドリアン・シャーウッドがソロ名義では13年ぶりとなる新作を発表
  19. Bruce Springsteen ——ブルース・スプリングスティーンの未発表アルバムがボックスセットとしてリリース
  20. Sherelle - With A Vengeance | シュレル

Home >  Reviews >  Album Reviews > Fit Of Body- Black Box No Cops

Fit Of Body

Deep HouseSynth-pop

Fit Of Body

Black Box No Cops

2MR

Disk UnionBig Love RecordsNewtoneBandcamp

三田格   Aug 15,2018 UP

 15年も前のことだけれど、サウンドデモというのを渋谷でやっていて、僕が非常に不満だったのはデモに来てくれる人たちの服装があまりに地味なことであった。人が集まってワーワー騒ぐデモンストレーションなんだから、もうちょっと赤とかイエローとか派手な服を着てきてくれないかなと思っていたのである。で、思いついたのがレインボー・プライドのとの合体。松沢呉一に紹介してもらって僕はプライドの主催者に会いに行き、一緒にやりませんかと誘ったのだけれど、レインボー・プライドは反戦のような政治的主張はしたくないということで交渉は成立せず、僕もどちらかといえば政治嫌いの体質なので(なのにデモとかやってんじゃねーという話ですが)、それ以上、押し問答などはせずあっさり引き下がり、途中から交渉場所であった「アクタ」(http://akta.jp)というスペースに興味が移ってしまった。そこはエイズ対策としてコンドームを無料で配布しているマンションの一室で、その当時の話では家賃は厚労省が払っていたという(自民党の杉田議員がLGBTに税金が使われているというなら、それはここのことでしょうか。しかし、先進国では日本だけがHIV感染が減らないんだから、こういう補助は必要でしょう)。僕が行ったときには奥の方で『薔薇族』の表紙展示会などをやっていて、たしかにさまざまなデザインのコンドームが並べてあった。有名なマンガ家などがヴォランティアで作品を提供しているのだという。そして、ひときわ印象に残ったのがパーティのフライヤーを並べてあったスペースで、それらはハウスとかテクノといった音楽の種類で分類されているのではなく(オネハぐらいはあったかもしれないけれど)、いろんなパーティを人間の「体格」で分けてあったのである。なかでも「ガッちび」というのがインパクト大で、「がっちりとして背が低い人」が目当てで人が集まるのかと思うとさすがにクラクラときてしまった。いわゆるヘテロのパーティではこういうのはないはずで、アンダーグラウンドには女性の体型を指定したパーティとかもあるのかもしれないけれど、あったらあったでそれもそれでキリがなさそうではある……

 「カラダの相性(Fit Of Body)」と名付けられたライアン・パークスによるハウス・プロジェクトは、そのビジュアル表現も含めて最初から僕はゲイだと決めつけている。そして、ハウスが誕生した瞬間を再現するような音楽性には優しさと繊細さがあふれ、あふれるメロウネスはあっさりと僕の心を掴んでしまった。デビュー・アルバムのタイトルとなった『Black Box No Cops』はアトランタにあるスケート・パークの名称だそうで、警察が来ない場所で長い時間を過ごせたということを意味するらしい。そう、アトランタといえば、いまはトラップが全盛の場所なのに、この男は見事にマッチョ・ロードを逆走し、物静かで過剰にロマンティック、囁くようなヴォーカルも実に切なく、スプリーム(Supreeme)のネガシ・アルマダをフィーチャーした“The Screamers”などはまるでおとぎ話のような曲調である(それこそヴェルサーチなどとんでもないというか)。過去には“Ridin 2 That Trap or Die”などという曲もあるので、別に否定しているわけではなく、地元ではヒップホップ・チームにも参加しているらしい……んだけれど、ほんとかなと思うほど彼のDJワークはゆるゆるで『Black Box No Cops』もバンドキャンプの紹介では「蒸し暑い夏のだるい感じ」とされていた……ということはこの夏にぴったりなのか……それをいうならバナナラマの“クルーエル・サマー”だろうか……。
 『Black Box No Cops』はそして「ハウスが誕生した瞬間」と簡単に書いてしまったけれど、正確にはエレクトロからヒップホップとハウスが分かれはじめた瞬間を再現したようなサウンドで、それこそいま、80年代前半と90年代前半が並行してリヴァイヴァルしまくっている最中に聴くと、リヴァイヴァル・サウンドのミッシング・リンクともいうべき奇妙な時間帯に紛れ込み、自分は「どこから来てどこへ行くんだっけな」という問いにぶつかるような気さえしてしまう。ロイヤル・TとDJQ、そしてフレイヴァ・Dが昨年リリースしたtqd名義のデビュー・アルバム『ukg』がセカンド・サマー・オブ・ラヴ直前のガラージ・サウンドを再現していたので、さらにその前段階にフォーカスすることで、どこかセカンド・サマー・オブ・ラヴによって様々なジャンルに分岐していったダンス・ミュージックがもう一度、再統合されたがっているような欲望まで喚起されてしまう。ヒップホップとハウスの区別がつかなかった時期とは、こんなにもプレッシャーのない場所だったのか……とか。ニューエイジとは無縁のヴィジブル・クロークスやディップ・イン・ザ・プールにも通じるものがあったり。
 リリースはこれまで〈トラブルマン・アンリミテッド〉や〈イタリアンズ・ドゥー・イット・ベター〉を運営してきたマイク・シモネッティが〈キャプチャード・トラックス〉のマイク・スナイパーと始めたダンス・レーベルから。どちらというと〈ホワイト・マテリアル〉とリンクしてきたプロデューサーだったので、意外な組み合わせではありますが、コズミックを追ってきたシモネッティと合わないとも言えず、お互いに体格に惹かれあったということで(嘘)。

三田格